センダイタイゲキ

 

仙台大戟 トウダイグサ科 トウダイグサ属

Euphorbia sendaica

日本固有種  環境省 準絶滅危惧(Near Threatend)

茨城県 絶滅危惧1A類 (Critically Endangered)

センダイタイゲキ 2014.04.29 茨城県 alt=25m (このページの写真すべて)
 センダイタイゲキ 2014.04.29 茨城県 alt=25m (このページの写真すべて)

 

 センダイタイゲキを見ることができました。 もちろん、

初見です。 茨城県では絶滅種とされていましたが、2007

年に再発見されました。  ある緑地をササ刈りなどをして整

備したところ、蘇ったそうです。 元々生育地点が少なく、

環境省レッドリスト2012年見直し版では準絶滅危惧、茨城

県レッドデータブック2012年改訂版では絶滅危惧1A類に分

類されています(1997年時点では絶滅種。カテゴリー定義

は上にリンクしたサイトにあり)。

 

センダイタイゲキ  中には高さ50cmほどになった株も
 センダイタイゲキ  中には高さ50cmほどになった株も

 

 ネットの情報などから自生地のおおよその場所は絞り込め

ていたのですが、詳しい花期などがわからず、いつ探索に向

かうか迷っていました。 そんなときに、茨城県の方がわざ

わざ自生地まで足を運び、写真と状況を送ってくれました。

私たちの訪れた場所とは違う自生地のようでしたが、現地の

方のホットな情報ほど頼りになるものはありません。 あり

がとうございました。 花が咲き始めたとわかったので、翌

日さっそく探索に向かい、良い状態の花に出会うことができ

ました。

 

センダイタイゲキ  2014.04.29 茨城県 alt=25m
思っていたよりも大きな群生。 地面は柔らかく、湿り気がありました。

 

 わずかな数が細々と咲いているだけかな? という予想に

反して、立派な群生を形成していたので嬉しくなりました。

 

 草丈は30〜40cmほど。 湿った土地を好む多年草で、乾

燥すると消えてしまうそうです。 分布は本州の関東以北で

すが、自生地は限定されるようです。

 

 仙台で初めて標本が採集されたことが名の由来です。

「大戟」は中国語でナツトウダイに似たの植物のことで、日

本ではこの仲間を総括して使う名称だそうです。

 

センダイタイゲキ  2014.04.29 茨城県 alt=25m
 なんとなく愛嬌がある姿です

 

 茎は直立し無毛、赤紫色をしていました。 葉はややまばらに

互生し、毛はありません。 葉の形は長楕円形状の披針形で、先

端は鈍く尖ります。 基部は広いくさび形で柄はありません。白

っぽい主脈が目立ちました。 茎の先端付近の輪生葉はやや小形。

.

センダイタイゲキの茎頂部
 センダイタイゲキの茎頂部

 

 茎の頂上に、5〜7個の葉  −茎葉よりは小さい−  を輪生状(図鑑

では「散形に」となっていました)につけ、葉の葉腋から枝を散形

に広げ、それぞれの先に杯状花序をつけます。

 

 また中心には、真上を向いた1個の杯状花序(はいじょうかじょ)

を1個つけます(矢印部)。  他の杯状花序と区別するために、ここ

では便宜上「中心の杯状花序」と呼びます。

 

 中心の杯状花序にのみ、腺体が5個あります(周辺の杯状花序は

4個)。  雌花はなく、従って不稔性(種子ができない)であり、数

個の雄花があります。 中心の杯状花序は、周辺の杯状花序のような

苞葉もなく、同じ杯状花序であっても異質です。

 

中心の杯状花序の正面
 中心の杯状花序の正面

 

 中心の杯状花序の拡大です。 しつこいですが、この花序にの

み、腺体が5個あります。 腺体は黄色く、押し潰したような半月

状の腎形で、両端は鈍頭で外側を向きます。 腺体の形状はトウ

ダイグサ属の植物の重要な識別ポイントです。 中心部の白っぽ

い部分は、雄しべ1個からなる雄花に伴う、小苞です。  雄花はよ

く見えません。

 

中心の杯状花序の側面
 中心の杯状花序の側面

 

 中心の杯状花序の側面です。  総苞葉がないので、小総苞がよ

く見えます。 小総苞は5個が合着し、杯のような形になってい

ます。 「杯状花序」の名称はここから来ています。

 

 この中心の杯状花序にとても興味を惹かれました。 というの

も、すべての株にあるわけではなく、無い株の方が多かったので

す。 取れてしまったのか、成長しなかったのか?

 

 そもそも心の杯状花序の役割は何なのでしょう? 雌花がな

く不稔性であることから、子孫を残せる花ではないので、やはり

昆虫に花を見つけてもらうための「広告塔」の役割の花なのでし

ょうか? だからこそ、周りの杯状花序より腺体が目立つ色をし

ているのでは? もしそうであれば重要な役割を負っているはず

ですが、欠落している株が多いのはなぜでしょう? ナゾは尽き

ません。

 

中心の杯状花序が欠落している株も多かった
 中心の杯状花序が欠落している株も多かった

 

 実際に数えた訳ではなく感覚的なものですが、全体の9割

ほどは、上のように中心の杯状花序がありませんでした。 

 

 

 上の株も中心の杯状花序がありませんが、中心部をよく見る

と何かが折れた跡のようなものが見えます(写真にマウスでポ

インターを重ねると拡大表示になります)。 推測ですが、

心の杯状花序は根元から折れて取れ易いのかも知れません。

 

 さてそれでは周辺の杯状花序をよく見ていきます。

 

センダイタイゲキの杯状花序  後述するが、上は雄性期の状態。
 センダイタイゲキの杯状花序  後述するが、上は雄性期の状態。

 

 2個の総苞葉が花序を包むように対生します。 腺体の形状は

中心の杯状花序と同様ですが、色はやや暗い黄緑色です。蜜(?)

を出しているのか、表面が液体で濡れているように見えました。

 

 中心の杯状花序は腺体が5個でしたが、周辺の杯状花序は腺体

が4個しかありません。 主軸から見て外側の、腺体が1個欠如し

た部分に雌花の花柄がつき、果実が成熟したのちに、うなだれて

きます。 雌花は1個の子房から成り、花弁と萼はありません。

子房すなわち果実の外面はほぼ平滑で、目立つイボ状突起や毛は

ありません。 柱頭は深く3分します。

 

 数個ある雄花は雄しべ1個から成り、これも花弁と萼はありま

せん。 雄しべの先端は2裂し、葯は黄色です(今回多くの花の

雄しべは一部あるいは全部が取れてしまっており、状態の良い花

を探すのに苦労しました)。

 

 以上のようにセンダイタイゲキの杯状花序は一見、雄しべと雌

しべのある完全花のようにも見えますが、実は総苞葉・小総苞・

雄しべだけの雄花・子房だけの雌花、そして腺体で構成され、花

弁も萼もないという、とても変わった花なのでした。

 

センダイタイゲキの若い花。子房の基部が若々しい緑色。 一方、雄花はまったく見えない。 雌性期と言える。
 若い花。子房の基部が若々しい緑色。 一方、雄花はまったく見えない。 雌性期と言える。

 

 上は開花後間もない、若い花です。 子房の基部はまだ赤紫

色ではなく、薄い緑色をしています。 3分した柱頭もフレッ

シュで形状が明確です。 子房の柄はまだ短いために雌花は垂

れ下がってなく、花序の中心に位置しています。

 

 ここからは図鑑にも載っていないので観察結果からの推測で

す。 この時期、雄花は子房の下にあり、まったく見えません。

むしろ子房が意図的に雄花を隠しているように見えます。 こ

れはこの花が雌雄異熟であることを示しているのではないでし

ょうか? 雌雄異熟とは、雄しべと雌しべが成熟する時期をず

らし、自家受粉を防ぐ仕組みです。

 

 センダイタイゲキは、まず先に雌花を成熟させ、ポリネーター

(送粉者)が他の花の花粉を運んできてくれるのを待ちます。

この時期、子房の柄は短いため雌花は花序の中央に位置し、雄

花を隠しています。 雄花がまだ未成熟であることもあり、自

家受粉の可能性は低いと思われます。 この時期が雌性期です。

 

 やがて受粉した雌花は柄を伸し、赤紫色になりながら外側に

垂れ下がるようになり、主役の座を雄花に譲ります。 主役交

代した雄花は花の中心で雄しべを成熟させて花粉を出し、他の

花に運んでくれるポリネーターを待ちます。 この時期が雄性

です。

 

 以上のように、センダイタイゲキの花は雌性先熟の雌雄異熟

であると思われます(完全花ではなく独立した雄花・雌花を

持つ杯状花序にこの呼び方が正しいのか、やや心配なところで

はありますが...)。 雌雄異熟については、カザグルマハル

リンドウのページでも述べていますので、興味のある方はご覧

下さい。

 

蜜?で濡れた腺体の様子
 蜜(?)で濡れた腺体の様子

 

 周辺の杯状花序の腺体の色は、中心の杯状花序より黄色みが

薄く地味な色です。 おそらく蜜(蜜以外も分泌しているかも

知れないので...)を分泌し濡れたように見えます。 上の写真

では雄しべはまだ成熟してなく花序の中にあり、先端のみが見

えます。

 

柱頭は深く3分します。
 柱頭は深く3分します。

 

 雌性期が終わると雌花の柄が伸び外側に垂れ下がります。

雄花が成熟し始め雄性期に入ります。 

 

 

 数個ある雄花は1個の雄しべから成りますが、実は2個の

雄しべが合着したもので、先端の2分岐した葯がその痕跡で

す。 葯は黄色。 雄しべの基部にやや色が白っぽくなった

境界部があります。 役目を終えると、ここから折れて取れ

てしまうようです。(写真にポインターを重ねて下さい)

 

 杯状花序の中の杯状花序
 杯状花序の中の杯状花序

 

杯状花序の中に別の杯状花序(矢印部)を持つ花も、少なからずいました。

.

センダイタイゲキとアマドコロの戦い
 センダイタイゲキとアマドコロの戦い

 

 小さな自生地の端では、センダイタイゲキとアマドコロが

激しい生存競争を繰り広げていました。 上の写真はその最

前線の様子です。 左側のセンダイタイゲキが優勢な領域に

は、アマドコロはいません。 一方、アマドコロが優勢な右

側の領域には、まばらではありますがセンダイタイゲキがい

るのです。 勇猛果敢なセンダイタイゲキの前線部隊が、ア

マドコロ領域の切り崩しに成功しつつあるのでしょうか?

 

 いえ、違うと思います。 定点観測している訳ではないの

で推測ですが、きっと逆でしょう。 かつてのセンダイタイ

ゲキの支配領域に、一気にアマドコロ軍団が攻め込んでいる

状態と思います。 大型のアマドコロ大軍の中に取り残され

たわずかなセンダイタイゲキは、四面楚歌になり青息吐息の

状態でしょう。 

 

 この緑地全体を見ると、センダイタイゲキはこの場所のみ。

対してアマドコロは至る所に群生を形成しており、圧倒的に

優勢に見えます。 今後もアマドコロによる侵食は進むでし

ょう。 さて、どうしましょう? 自然の成り行きに任せ、

見守るだで放置するか? あるいは一時は茨城県で絶滅した

ともされたセンダイタイゲキを脅かす存在として、アマドコ

ロを駆除するのか? 難しい問題ですね。

 

センダイタイゲキと小さなバッタ

 

 

2014.07.12 掲載

2014.07.22 改訂

 ・表現の修正:「花被はありません」→「花弁と萼はありません」

 ・情報の追加:「雄花は1個の雄しべから成り、先端が2分します」→

        「雄花は雄しべ1個から成りますが、実は2個の雄しべが合着

         したもので、先端の2分岐した葯がその痕跡です」

 

コメント: 2 (ディスカッションは終了しました。)
  • #1

    BOGGY (日曜日, 13 7月 2014 06:44)

    メールが入っていたので早速伺いました。
    センダイタイゲキの凄い群落ですね。
    2012年の4月に、山菜を採りに入った沢で、私には初見の、勿論名前も分からない珍しい野草と思って写真を撮り、帰って調べたらナツトウダイでした。
    良く似ていて同じ科、属なのが納得です。

  • #2

    hanasanpo (日曜日, 13 7月 2014 07:39)

    BOGGYさん、おはようございます!
    長いレポートをお読みいただき、ありがとうございます。
    トウダイグサ属の植物は地味ですが、ちょっと面白いゾと思い始めました。
    メールマガジンはページ更新毎に発行する方針に変えました。