ホシザキユキノシタ

 

星咲雪の下 ユキノシタ科 ユキノシタ属

Saxifraga stolonifera Meeb. var. aptera Makino (変種)

Saxifraga stolonifera Meeb f. aptera (Makino) H. Hara (品種)

茨城県:絶滅危惧ⅠA類 (環境省指定はなし)

#1 ホシザキユキノシタ  2015.06.28 茨城県 筑波山
#1 ホシザキユキノシタ  2015.06.28 茨城県 筑波山

 

 茨城県の筑波山で発見され、世界中で筑波山にのみに生育する多年草です(註1)

つくば市の天然記念物に指定されており、また茨城県レッドデータブック(2012年改訂版)では、絶滅危惧ⅠA類にされています。 ユキノシタの変種とする説と、品種とする説があるため、学名を併記しました。

 

 母種のユキノシタや、その仲間の花の形状は、どれも似ています(→ユキノシタ属参照、クロクモソウは除く)。 しかしホシザキユキノシタは、そのどれとも異なる、とても変わった形の花をつけるのです。 他の近縁種の仲間とは「一線を画して我が道を行く」と主張しているような花なのです。 まずは、次のホシザキユキノシタの花をじっくりご覧ください。

 

#2 ホシザキユキノシタの花 下側2花弁が雄しべのような形状になっている
#2 ホシザキユキノシタの花 下側2花弁が雄しべのような形状になっている

 

 ホシザキユキノシタの花の上側には、3つの小さな花弁があります。 この3花弁は長さは3mmほどで、卵形で、先は尖り、基部には明瞭な爪があります。 花弁の中央付近には紅紫色の斑紋があり、下部には黄色の班があります。 小さいですが、よく見ると美しい花です。

 

 花の中央にある濃黄色の部分は花盤で、子房の途中までを包んでいます。 雄しべは放射状につき、長さは3〜10mmで、ほとんどは3花弁より長い。 葯は淡紅色。 白色の花糸は、基部より先端方向がやや幅広になります。

 

 花の下側にあるべき2花弁は、雄しべ状になって、通常の雄しべの中に紛れ込んでいます。 このため目立つのは、放射状になった雄しべです。 この姿を輝く星にたとえて「星咲雪の下」の名がつけられたようです。 下で詳細を調べていきますが、先に、近縁種の花の様子を再確認しておきます。

 

 ユキノシタダイモンジソウの仲間の花は、5つの花弁を持ち、花の上側には小さな3花弁が、下側には大きな2花弁がつきます。 この様子が「大」の字や「人」の字に見えることから、ダイモンジソウやジンジソウの名の由来になっています。 つまりこのような花弁のつき方が、この仲間の花を特徴付けていると言えます。 例として写真#3〜#6に近縁種の花の一部を示しました。

 

#3 ユキノシタ
#3 ユキノシタ
#4 ハルユキノシタ
#4 ハルユキノシタ
#5 ダイモンジソウ
#5 ダイモンジソウ
#6 ジンジソウ
#6 ジンジソウ

 

 上で示した近縁種の花は、すべて「左右相称花」です。 左右相称花とは、花全体を見たときに対称軸が1つしかなく、左右に相称な花であり、ふつう横向きに咲きます(*3,*4)。 もちろん、各部位に大きさの変異があり、鏡像のように完全な左右相称ではありませんが、ここでは近似的に左右相称であるとします。 また#3〜#6に示したような花は、正面から見たときに明確な上下の違いがあり、「強い左右相称」があると言えます(*4)

 

 このような花の構造は、送粉者(花粉を運んでくれる昆虫)を制御するためと考えられています(*4)。 植物は、送粉者の昆虫とともに進化して来ました。 花の構造や各部の大きさは、送粉者に合わせてあるのです。

 

 送粉者に蜜のありかを示し、送粉者が足を掛けやすい部分を作り、送粉者が蜜腺に至るまでのルートを制御します。 送粉者が花粉より先に柱頭に触れるように仕向け、自家受粉の確率を減らします。 送粉者の体表面の特定の場所に花粉をつけ、他の花まで運んでもらえる確率を高めます。

 

 ところが、ホシザキユキノシタは、下側2弁をまるで雄しべのようにし、その結果、左右相称花ではなく、「放射相称花」の体をなしているのです。

 

 放射相称花とは、キク科やサクラソウ科の花のように、3つ以上の対称軸を持つ花です(#7,#8)

 

#7 キク科の花
#7 キク科の花
#8  サクラソウ科の花
#8 サクラソウ科の花

 もちろん上で示したホシザキユキノシタは、上側3弁が残っているので、完全な放射相称花とは言えないかも知れませんが、それを考慮しても、この差は大きいと思います。 他の仲間とは、まったく別の進化の道を歩んできたと思えます。 もしかすると、送粉者がまったく異なる昆虫なのでしょうか? 私のようなシロウトには、この植物がユキノシタの変種や品種ではなく、別種ではないか? と思えてしまうのです。

 

 ホシザキユキノシタの花をよく観察すると、様々なタイプがあることがわかります。 #9以降で、それらを見ていきます。

 

#9 下側2花弁が雄しべに変化したホシザキユキノシタの花
#9 下側2花弁が雄しべに変化したホシザキユキノシタの花

 

 母種のユキノシタは、5つの花弁(上側3小花弁、下側2大花弁)と、10個の雄しべを持っていることを#3で再確認しました。 #9のホシザキユキノシタの花は、上側3花弁( )はありますが、下側2花弁は認められません。 そして先端に葯をつけた雄しべが①〜⑫と、12個もあり、2個多い! 元々の花弁5個と雄しべ10個の合計は15なので、合計数は合っています。

 

 これは下側2花弁が「退化した」のでも「雄しべのような形状になった」のでもなく、「雄しべになった」ことを示していると思います。 花弁を雄しべにしてしまうとは、驚き桃の木山椒の木です。「マジっすか?」と思いました。

 

 但し、花弁から変化した雄しべが、本来の雄しべと同様な機能を果たすのか、つまり、葯が裂開して花粉を供給できるのか、あるいは「見てくれだけ」雄しべに似せて、実は雄しべの機能は持たないのか、それはわかりませんでした。

 

#10 下側2花弁を持つホシザキユキノシタの花
#10 下側2花弁を持つ花

 

 #10の矢印で示した花弁は、下側2花弁が花弁として残っています(矢印部)。 但し、花弁先端付近の形状が少しいびつになっています。 雄しべになろうとして、失敗したのかな? 雄しべは、一部見えにくいですが、10個あります。 開花後時間が経っており、葯はすべて落ちて、花柱が長く伸びている状態です。

 

#11 下側2花弁を持つホシザキユキノシタの花
#11 下側2花弁を持つ花

 

 #11の花も、下側2花弁を残しています。 形はいびつです。 このような中間型が数多く存在することが、研究者の方が別種とはせず、変種または品種とした理由なのでしょう。

 

 しかし、下側の2花弁を雄しべに変えてしまったホシザキユキノシタは.... 次は、「上側の3花弁も雄しべにしちゃおうか?」と考えるかも? きっとそうに違いない! そんな空想をしながら花を観察していたら... いました!

 

#12 上側花弁の一部も雄しべに変化したホシザキユキノシタの花
#12 上側花弁の一部も雄しべに変化した花

 

 やはりいました、上側の3花弁も雄しべにしてしまっている花が! 念のため、また番号を振りました。 3弁のうち、1弁は花弁として残っています( )。 ①と③の雄しべが通常の雄しべよりはかなり幅広く、上側花弁が雄しべに変化したものと思われます。 元々下側2花弁だった雄しべは、変色した葯が残っている⑥と⑩かな? これは明確にはわかりません。 全体の数は、14+a=15で変動ありません。

 

 ここまで見てきて、ホシザキユキノシタが目指していることが見えてきました。 「すべての花弁を雄しべに変化させたい!」 これに違いありません。 更に花を観察していると...  いました、究極の姿の花が!

 

#13 すべての花弁を雄しべに変化させ、左右相称花から放射相称花に変身した、究極の(?)のホシザキユキノシタの花
#13 すべての花弁を雄しべに変化させ、左右相称花から放射相称花に変身した、究極の(?)の花

 

 花弁をすべて雄しべに変化させた花です! 花弁はすべて雄しべと化し、15個の雄しべがあるのみです。 これこそが、ホシザキユキノシタの花として相応しい。 左右相称花から放射相称花へ、華麗なる変身を遂げました! こんなことする花って、他にいましたっけ? ラン科植物のペロリア(peloria)を連想しましたが、これはユキノシタのペロリアと呼んで正しいのでしょうか?(正しくない気もします)

 

 思わず、花にこう問いかけました。「これが君が目指した、究極の姿なのか? 送粉者への広告塔でもあり、送粉者の足台にもなった、大事な花弁をなくしてしまって、本当に大丈夫なのか? こんな姿に変身してしまって、本当は後悔しているんじゃないの?」

 

 ホシザキユキノシタは、他の近縁種とは大きく異る花を持つ植物であることがわかりました。 なぜこのような進化を遂げたのかはわかりません。 筑波山は独立峰ではなく、筑波山塊に属しています。 しかし筑波山塊自体は、他の山地とやや隔離されているようにも見えます。 このような環境が、この特異な固有種を育んだのでしょうか...? ナゾです。 今後の研究の成果が待たれます。

 

#14 筑波山と筑波山塊 (Google Mapより)
#14 筑波山と筑波山塊 (Google Mapより)
#15 ホシザキユキノシタは湿気のある、苔むした岩が好きなようです
#15 ホシザキユキノシタは湿気のある、苔むした岩が好きなようです

 

 ホシザキユキノシタの草丈は20〜50cmで、母種のユキノシタとあまり変わりません。 半日陰で、湿って苔むしているような岩に多くいました。 花期は、5〜6月です。 2015年においては、6月28日時点でこれだけ咲き残っていました。

 

 種子繁殖だけでなく、親株から走出枝を伸ばし、その先端に子株を生ずる、栄養繁殖でも増えます。 #15では、右下に細長く伸びた紫色の走出枝が見えます。

 

#16 ホシザキユキノシタは、垂直に近いような岩壁にもたくさんいました
#16 ホシザキユキノシタは、垂直に近いような岩壁にもたくさんいました
#17 花の季節に筑波山を訪れたら、ぜひこの可愛い花を見て下さい
#17 花の季節に筑波山を訪れたら、ぜひこの可愛い花を見て下さい
#18 ピークは過ぎていましたが、これから咲く花もありました
#18 ピークは過ぎていましたが、これから咲く花もありました
#19 たくさん集まると、星空のよう?
#19 たくさん集まると、星空のよう?
#20 ホシザキユキノシタの葉の表面
#20 ホシザキユキノシタの葉の表面

 

 根出葉は束生し、長さ3〜10cmの柄があります。 葉は腎円形で、基部は心形、縁には浅い鋸歯があります。 表面は緑色で、脈が白く見えます。 表面全体に、白っぽく粗い毛が生えます。

 

#21 ホシザキユキノシタの葉の縁の拡大
#21 葉の縁の拡大

 

 #21は、葉の縁の様子です。 白っぽい毛が密生しています。 白っぽい毛は実は半透明で、先端付近が赤みがかっていました。

 

#22 ホシザキユキノシタの葉の裏面
#22 葉の裏面

 

 #22ホシザキユキノシタの葉の裏面は淡紫色で、脈の部分は淡緑色です。 表面と同様、裏面にも粗い毛が生えています。

 

 #23 ホシザキユキノシタの葉には白い斑紋が入らない
 #23 ホシザキユキノシタの葉には白い斑紋が入らない
#24 ユキノシタの葉  脈に沿って白い斑紋が入る
#24 ユキノシタの葉  脈に沿って白い斑紋が入る

 

 ホシザキユキノシタの葉は、ユキノシタと区別できないとする説があります。 しかし#23ホシザキユキノシタと#24ユキノシタの葉を見比べると、相違点があります。 ホシザキユキノシタの葉の表面は、脈上だけが白っぽく見えます。 これに対し、ユキノシタの葉も脈上が白いですが、それが滲んで幅広く広がったように見える、白い斑紋があります。 この差異はけっこう明瞭なので、両種の葉を識別できる可能性があると思います。 数多くの個体を見比べた訳ではないので、ここでは「葉で識別できる可能性がある」とだけ言っておきます。

  

#25 茎の基部の様子
#25 茎の基部の様子

 

 #25は、茎の基部の様子です。 葉が束生しています。 茎や葉柄にも毛が生えています。 紫色の走出枝も何本か見えます。

 

 

< 引用・参考文献、及び外部サイト >

 

*1 日本の野生植物 草本 Ⅱ 離弁花類

   平凡社 1982年3月31日 初版第3刷 p.172

 

*2 GKZ植物事典  ホシザキユキノシタ

 

*3 BotanyWEB  花のタイプ

 

*4 福原のページ(植物形態学・生物画像集など)  6-8. 動物梅花:制御

 

*5 Wikipedia/筑波山

 

※ 外部サイトは、それぞれの運営者の都合により、変更・削除されることがあります。

 

 

< 註 >

註1: 外部サイト(*1)に「茨城県以外からも自生が報告されているという」と記載がありまし

   たが、ネット検索でその根拠となる情報を見つけられなかったため、他の多くの文献・ネッ

   ト情報で述べられている通り、「筑波山にのみ生育する」としました。

  

 

2017.06.08 掲載

 

  

ホシザキユキノシタの掲載ページ

 Dairy-Hiroダス

  2015年6月28日 筑波山の固有種 

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