ダイモンジソウ

 

大文字草 ユキノシタ科 ユキノシタ属

Saxifraga fortunei  var. alpina

#1  ダイモンジソウ 2015.10.10 静岡県 alt=235m (このページの写真すべて)
#1 ダイモンジソウ 2015.10.10 静岡県 alt=235m (このページの写真すべて)

 

 山地の湿った岩上に生える多年草です。 花茎の高さは5〜40cm。

花期は7〜10月で、日本では北海道から九州まで分布します。

 

#2 ダイモンジソウの自生地は水が豊富な岩壁でした
#2 自生地は水が豊富な岩壁でした

 

 私たちは花の名は以前より知っていましたが、なかなかよい状態のときに出逢う機会がありませんでした。 ようやく出逢えたのは、2年前の2015年。 垂直に近い水が滴り落ちるような岩壁に、多数咲く姿を見ることができました。 この場所は、その前年に花友さんに別の花を案内いただいた場所で、そのときに葉を見つけたのです。 翌年、時期を見計らって再訪し、花を見ることができました。 花友さんに感謝です。

 

#3 ダイモンジソウの葉
#3 ダイモンジソウの葉

 

 葉は短い根茎に束生します。 長さ5〜20cmの柄があり、葉は腎円形で、長さ3〜15cm、幅4〜20cm。 基部は心形〜くさび形で、縁は5〜17浅裂します(*1、別の図鑑*2では、5〜12浅裂)。 #2の中央の葉は、およそ13浅裂しています(「およそ」としたのは、鋸歯として数えるか迷う、小さな鋸歯状の部分もあるため)。

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#4 ダイモンジソウの葉の表面−1  ユキノシタのような白斑はありません
#4 ダイモンジソウの葉の表面−1  ユキノシタのような白斑はありません

 

 #4の葉はおよそ15浅裂しています。 葉を触ると厚いですが、柔らかい感触です。 図鑑(*1)には「葉には金平糖状のシュウ酸塩の結晶がある」と記載されています。  しかし実物を見てもそれがどのような部分を指すのか、わかりませんでした。金平糖状に何かは、見えません。  時期によっては、それが見えて来るのでしょうか?

 

#5 ダイモンジソウの葉の表面−2  長毛が生えます
#5 ダイモンジソウの葉の表面−2  長毛が生えます
#6 ダイモンジソウの葉の裏面
#6 葉の裏面

 

 葉の表面には、長毛が生えています。 葉に触るとザラザラした感触です。 葉の裏面にも、長毛が生えていました。 裏面は白っぽく、わずかに紫紅色を帯びていました。

 

#7 ダイモンジソウは、集散花序〜円錐花序となる
#7 ダイモンジソウは、集散花序〜円錐花序となる

 

集散花序〜円錐花序に、白い花をややまばらにつけます。

 

#8 ダイモンジソウ ホトトギスとともに
#8 ホトトギスとともに

 

自生地は自然度が高く、多くの種類の草花が見られました。 #8の

紫色の花は、ホトトギス。 少し離れた場所にも群生していました。

 

#9 群生するダイモンジソウ
#9 群生するダイモンジソウ

 

 1つの株では花数はさほど多くありませんが、株が

まとまって咲くと、とても賑やかな雰囲気になります。

 

#10 ダイモンジソウの花
#10 ダイモンジソウの花

 

花の形が大の字に似ていることが、名の由来です。

 

#11 ダイモンジソウの花  大の字に見えますか?
#11 ダイモンジソウの花  大の字に見えますか?

 

 ダイモンジソウの花の花弁は、5個あります。 上側3個の花弁に対して、下側2個は長く、このため「大」の字に見えます。 きれいな「大」の字の花を探しましたがなかなか見つからない。 下側2個の花弁の長さが、かなり不揃いなのです。

 

#12 ダイモンジソウの花の正面
#12 ダイモンジソウの花の正面

 

 5個の花弁は純白で、清楚な印象です。 花弁の曲線が、とても美しい。 花色は、まれに淡紅色になることがあるそうです。

 

 上側3花弁は、図鑑(*1)の解説では「楕円形」とされていますが、「披針形」と表現した方が適切かな? と思いました。 ちなみに「披針形」を辞書(*3)で調べると「植物の葉などで、平たくて細長く、先のほうがとがり、基部のほうがやや広い形」とあります。 3花弁の形状は、やはり「楕円形」より、「披針形」が適切であると思いました。 長さは3〜4mmとされています(*1) 基部はくさび形で、短い爪がありますが、例によって同じ位置につく雄しべに邪魔されてしまい、写真ではよく見えません。

 

 雄しべは10個で、観察した時点の葯は、薄いみかん色。 長さは約3〜4mmとされています(*1)。 この長さは上側3花弁と同じですが、実物は、どの花も雄しべは花弁より短く見えました。 雄しべは斜め前方に伸びるので、正面から見れば短く見える訳ですが、それを考慮しても雄しべの方が短かった。 次回は実測してみましょう。 花糸は、基部よりも先端方向が微妙に太いです。

 

 本種は子房上位で、花の中央の濃黄色でツヤのある、目立つ部分は、花盤です。 花柱は2個ありますが、正面からの写真ではよく見えません。 写真#14・#15をご参照下さい。

 

 下側の2花弁は線状楕円形で、長さは4〜15mm。 上側3花弁よりずっと長い訳ですが、「上向きに咲く花は5つの花弁がほぼ同長になる」そうです(*1)。 撮影した写真を目を皿のようにして探してみましたが、残念ながらそのような花は見つかりませんでした。 しかし、上向きではない花で、下側2花弁のうちの1つが、上側3花弁と同じような長さである花は、多数見つかりました(写真#13参照)。

 

#13 ダイモンジソウ下側2花弁のうち、一方が非常に短い花も多かった
#13 下側2花弁のうち、一方が非常に短い花も多かった
#14 ダイモンジソウの花柱
#14 ダイモンジソウの花柱
#15 ダイモンジソウの花柱
#15 ダイモンジソウの花柱

#16 ダイモンジソウの花の背面
#16 ダイモンジソウの花の背面

 

 上は、ダイモンジソウの花の背面の様子です。 黄緑色をした萼片は斜開し、卵形〜卵状楕円形で、長さは2〜3mm。 苞(矢印部)は披針形です。

 

 

これは? キレベンダイモンジソウ?

 

#17 花弁に深い鋸歯があるダイモンジソウ
#17 花弁に深い鋸歯があるダイモンジソウ

 

 ここには、とても変わったダイモンジソウも咲いていました。 5つの花弁すべてに、深い切れ込みがあるのです。 この切れ込みを鋸歯と呼んで正しいかわかりませんが、ここでは便宜上、鋸歯と呼びます。

 

#18 花弁に深い鋸歯があるダイモンジソウ
#18 花弁に深い鋸歯があるダイモンジソウ

 

 一度見たら忘れられない、衝撃的な姿です。 マンガで描かれる稲妻を連想しました。 実は、通常のダイモンジソウの中にも、細かく見ると花弁の縁がきれいな全縁ではなく、わずかな段差を生じている花が、少なからずあります。 しかしそれは微細な段差であり、「鋸歯」という言葉は当てはまりません...(「微鋸歯」ならよいかも知れません)。

 

 しかしこの花は、特に下側2花弁については、切れ込みの深さが、その部分の花弁の幅にも匹敵するほど深いのです。  これは単なる個体差とはいえないレベルと思います。 花弁の形状以外に、通常のダイモンジソウと異なる点は特に見つかりませんでした。

 

 図鑑には記載がないので、ネットで調べてみました。 画像を使った検索なども駆使しました。 その結果、いくつかの関連した情報を見つけることができました。

 

 このサイト(*4)では、ページに掲載した最初の2枚が、「キレベンダイモンジソウというのかも知れない」と述べられています。 写真を拝見すると、あまり深くはないですが、明らかに通常の花とは異なる鋸歯があります。 ひとつの花の花盤が濃紅色をしているも興味を惹かれます。(このサイトは閉鎖されました)

 

 こちらのサイト(*5)では画像はありませんが、「... 上記の品種の他にも、花弁に鋸歯のあるものをキレベンダイモンジソウ(f. serrulata)という場合もある。」と紹介されています。  ミヤマダイモンジソウの変種として、学名の記載もあるので、この学名で検索してみました。学名は Saxifraga fortunei var. incisolobata f. serrulata を中心に、いくつか試しました。 しかし、検索結果として表示された、海外サイトも含めた各ページからは、この花がキレベンダイモンジソウであると判断できる有効な情報は得られませんでした。 学術論文を検索してもヒットせず。 検索の方法が悪いのかも知れませんが...

 

#19 花弁に深い鋸歯があるダイモンジソウ
#19 花弁に深い鋸歯があるダイモンジソウ

 

 ネット検索では、この花と酷似した画像を掲載しているサイトがいくつか見つかりましたが、すべて同じ場所で、同じ株を撮影したと思われるものでした。 ここでは意外と多くの方が花を観察されているようです。

 

 結局、キレベンダイモンジソウの情報が得られなかったので、この花をそう呼んでよいかの判断はできませんでした。 推測で決めつけることはできないので、ここではキレベンダイモンジソウとしません。

 

 花の写真を撮影し、ブログやホームページに掲載している方は、このような変わった花を見つけたら、ご自分のサイトに公開する可能性が高いと思います。 これだけ検索してほとんど情報が得られないということは、非常に珍しい花である可能性もありそうです。

 

 キレベンダイモンジソウであると判明している花、またはこの花と似た花の画像・情報をお持ちの方は、ぜひこのページのメールフォームからお知らせ下さい。 よろしくお願いいたします。

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 ダイモンジソウは、地理的にだけではなく、垂直的にも海岸から高山に至る広い範囲に分布しています。 変種の幅も大変広く、特に葉の形・大きさ・切れ込みの程度の差などに基づいて、多くの型が区別されてきました(*1)。 当サイトでは、それらのいくつかを掲載しているので、興味がある方は下のページも参考にして下さい。

 

 イズノシマダイモンジソウ

 ウチワダイモンジソウ

 ナメラダイモンジソウ

 ミヤマダイモンジソウ

 

< 引用・参考文献、及び外部サイト >

文献・図鑑などの著作物や、個人・法人のWEBサイトにも著作権があることをご理解の上、ご利用下さい。

 

*1 日本の野生植物 草本 Ⅱ 離弁花類

   平凡社 1982年3月31日 初版第3刷 p.172

 

*2 山渓ハンディ図鑑2 山に咲く花 増補改訂新板

   http://www.yamakei.co.jp/products/2811070210.html

   山と渓谷社 2013年3月30日 初版第1刷 p.288

 

*3 デジタル大辞泉

 

*4 遠い声  ミヤマダイモンジソウ ハクサンフウロ ミヤマホツツジ

   https://blogs.yahoo.co.jp/fuminoriash/49148240.html

 

*5 野の花賛花  ミヤマダイモンジソウ(深山大文字草)

   http://hanamist.sakura.ne.jp/flower/riben/yukisita/miyadai.html

    

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2017.05.26 掲載

2017.06.06 記事を追記