ウチワダイモンジソウ

 

団扇大文字草 ユキノシタ科 ユキノシタ属

Saxifraga fortunei  var. obtusocuneata (Makino) Nakai

日本固有種

#1 ウチワダイモンジソウ  2015.10.24 愛知県 alt=160m
#1 ウチワダイモンジソウ  2015.10.24 愛知県 alt=160m

 

 本州から九州に分布し、山地の谷沿いの岩上に生える多年草です。 ダイモンジソウの変種です。 花期は7〜10月。 和名の「団扇」は、ご想像の通り葉の形状が団扇を思い起こさせることに由来しており、「大文字」は、もちろん花の形が「大」の字に似ていることに由来しています。

 

 花は、ダイモンジソウと区別できないほど似ています。 相違点は、葉の形状にあります。 まずは、図鑑(*1、*2)などを参考にして、ダイモンジソウの葉との相違点のうち、重要と思われる項目を表1.にまとめてみました。

 

表1. ウチワダイモンジソウ と ダイモンジソウの葉の相違点

項目 ウチワダイモンジソウ ダイモンジソウ

葉身

倒卵形(長さ>幅:縦長) 腎円形(長さ<幅:横長)

基部の形状

くさび形(まれに切形) 心形(またはくさび形)

縁の裂け方

3〜7浅〜中裂 5〜17浅裂

葉表面の毛

無毛(?) 長毛が生える

 

 

ここでは裂けた深さが、葉の長さの1/3未満を浅裂、1/3〜2/3未満を中裂、2/3〜全裂未満を深裂 とすることにします。 とはいえ、それらは目分量での判断が基本になります。

 

 以上と表1.を見つつ、写真#1の株の葉をよく見てみます。次の写真をご覧下さい。

 

#2 ウチワダイモンジソウの葉
#2 ウチワダイモンジソウの葉

 

#1の葉です。 葉身は倒卵形で、幅より長さが長い、

縦長の形状です。 基部はくさび形になっています。

 

#3 ウチワダイモンジソウの葉 拡大1
#3 ウチワダイモンジソウの葉 拡大1
#4 ウチワダイモンジソウの葉 拡大2
#4 ウチワダイモンジソウの葉 拡大2

 

 #3は#2の一部を拡大したものです。 葉身は縦長で、基部はくさび形。 この葉は5浅裂しています。 毛はありませんが、毛穴のようなものは見えます。

 

 #4も同様です。 葉身は縦長、基部はくさび形で、これも5浅裂しています。

「アヒルの足のようだ」との感想を漏らした人がいました。

 中央の葉には毛がないように見えますが、円内に示す上に見えている葉には、明らかに毛が生えています。 ダイモンジソウのような長毛ではありませんし、生え方もまばらです。 しかし図鑑では、ウチワダイモンジソウの葉は「無毛」とされているので、少し気になるところです(「無毛」が誤っている可能性もあります)。

 

 本種に限らず、図鑑のいろいろな植物の解説に、「無毛」とか「毛はない」と書かれていることがあります。 しかし、実物の植物を観察すると、わずかながら毛が生えていたという経験はよくあります。 「無毛」と聞くと、「完全に、1本も毛がない」と思ってしまうのですが、もしかすると、程度問題なのかも知れません。 毛が生えはするが、それが特徴とならないほど少なかったり、短かったりした場合は、「無毛として問題なし」となるのかも知れません。 この辺は想像ですが。

 

 また脱線しましたが、毛に関してやや首をかしげる部分はあるものの、この植物はウチワダイモンジソウとして間違いない、という結論です。 他の株も見てみましょう。 少し多めに写真を掲載しました。

 

#5 川岸の岩の上に群生していました。 やはり川沿いの湿った岩上が好きなようです
#5 川岸の岩の上に群生していました。 やはり川沿いの湿った岩上が好きなようです
#6 川岸の岩は苔むしていた。 このような環境が重要なのでしょう。 コンクリートでは生きられない
#6 川岸の岩は苔むしていた。 このような環境が重要なのでしょう。 コンクリートでは生きられない
#7 大雨で増水したら水に浸かってしまいそうな場所に、多く生育しています
#7 大雨で増水したら水に浸かってしまいそうな場所に、多く生育しています
#8 自生領域はさほど広大ではないものの、数は少なくありませんでした
#8 自生領域はさほど広大ではないものの、数は少なくありませんでした
#9 ウチワダイモンジソウ  この株の葉は3浅裂しています
#9 ウチワダイモンジソウ  この株の葉は3浅裂しています
#10 ウチワダイモンジソウ
#10 ウチワダイモンジソウ
#11 葉は混生し長い柄があります。 まばらな円錐花序に多数の花をつけます
#11 葉は混生し長い柄があります。 まばらな円錐花序に多数の花をつけます
#12 ウチワダイモンジソウ
#12 ウチワダイモンジソウ
#13 ウチワダイモンジソウ#12の葉 基部はくさび形、3〜5浅裂。 白っぽい毛が、まばらに生えていました
#13 #12の葉 基部はくさび形、3〜5浅裂。 白っぽい毛が、まばらに生えていました
#14 有毛のウチワダイモンジソウの葉
#14 有毛のウチワダイモンジソウの葉

 

 #14で示すように、明確に有毛である葉を持つ個体がいました。 基部はくさび形でウチワダイモンジソウであるといえますが、ダイモンジソウ並の長毛が生えています。 やはり図鑑の「無毛」の記載には、疑問を抱かざるを得ません。 「ふつうは無毛だが、有毛のこともある」などと訂正されてはどうかと思いました。

 

#15 リンドウとともに咲くウチワダイモンジソウ
#15 リンドウとともに咲く

 

 次は、花に注目します。

 

#16 ウチワダイモンジソウの花  大の字に似ています
#16 ウチワダイモンジソウの花  大の字に似ています
#17 ウチワダイモンジソウの花弁は5個。 上側3弁は小さく楕円形、下側2弁は大きく、線状楕円形
#17 花弁は5個。 上側3弁は小さく楕円形、下側2弁は大きく、線状楕円形

 

 花はダイモンジソウにとても似ています。 純白の5花弁があり、上側に3弁、下側に2弁つきます。 上側3弁は長卵形〜楕円形で、この部分が披針形であるダイモンジソウよりも、丸みを帯びています。 下側2弁は線状楕円形で、上側3弁より明確に長くなります。 上側3弁はほぼ均等な大きさですが、下側2弁は左右どちらかが長くなることが多く、不揃いです。

 

 ところで#17の花は、花弁の縁がきれいな全縁ではなく、微細な欠刻がありました(微鋸歯、とでも言いたい)。 これはダイモンジソウや、ナメラダイモンジソウなどの他の変種でも見られました。

 

#18 ウチワダイモンジソウの下側2弁の大きさは不揃いであることが多い。 雄しべは10個
#18 下側2弁の大きさは不揃いであることが多い。 雄しべは10個
#19 ウチワダイモンジソウの花の側面  濃黄色の部分は花盤。 中心から花柱が2個、突き出します
#19 花の側面  濃黄色の部分は花盤。 中心から花柱が2個、突き出します

 

この植物は?

 

#20 この植物は?
#20 この植物は?

 

 自生地では、#20のような植物も散見されました。 葉にご注目。 ウチワダイモンジソウとは、様相が異なります。 葉を詳しく見ましょう。

 

#21 ダイモンジソウと思える葉
#21 ダイモンジソウと思える葉

 

 この植物の葉身は腎円形に近い楕円形で、基部は明らかに心形です。 この点から、ウチワダイモンジソウではなく、ダイモンジソウの特徴を持っていると言えます。 また中央の大きな葉は6(7?)浅裂し、両種の中間的な裂け方です。

 

 まばらに生える毛は、上で見てきたウチワダイモンジソウと同じように見え、ダイモンジソウの葉の毛よりは、かなり密度が低いと言えます。 これは個体差・地域差の範囲であるのかも知れません。

 

 以上よりこの植物は、ダイモンジソウと呼んで差し支えないものの、わずかにウチワダイモンジソウの特徴も兼ね備えているとも言えます。 母種ダイモンジソウから変種ウチワダイモンジソウへの移行型なのか? 母種と変種間の交雑種なのか? シロウトの私たちはいろいろ想像しますが、本当のところはわかりませんでした。

 

 

 ウチワダイモンジソウ、今回が初めてのご対面だったので、大満足の花さんぽでした。 ただ、図鑑の「無毛である」の記述には、疑問を感じました。

 

 

< 引用・参考文献、及び外部サイト >

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*1 日本の野生植物 草本 Ⅱ 離弁花類

   平凡社 1982年3月31日 初版第3刷 p.172

 

*2 山渓ハンディ図鑑2 山に咲く花 増補改訂新板

   http://www.yamakei.co.jp/products/2811070210.html

   山と渓谷社 2013年3月30日 初版第1刷 p.288

     

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2017.05.26 掲載

2018.01.02 参考外部サイト消失に伴う、本文の一部修正

 

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  2015年10月24日 晩秋の奥三河