カイコバイモ

 

甲斐小貝母 ユリ科 バイモ属

Fritillaria kaiensis

日本固有種  絶滅危惧lB類(Endangered) 

 カイコバイモ (甲斐小貝母) ユリ科 バイモ属 2012.04.01
カイコバイモ (甲斐小貝母) ユリ科 バイモ属 2012.04.01

 

 コシノコバイモとミノコバイモは見ることができていたので、次はぜひカイコバイモも見たいと思っていました。 2010年4月17日に初めてこの自生地を訪れたときはまったく遅すぎて、葉すら見つけることができませんでした。 翌2011年は3月中旬に探索に行こうと決めていましたが、大震災の影響で行くことができませんでした。


 そして今年、2012年。 3月10日の訪問では、早過ぎて気配もありません(今年の冬は寒い日が多く、花は全体的に遅れ気味?)。 20日文化の日に再チャレンジするも、またしても葉も見つけられず(きっと探し方が悪かった)。 ボランティアで一帯の管理をされているおじいちゃんから「最低でも1ヶ月後だろうね」とお聞きしました。 いくらなんでも1ヶ月後はないでしょ?と思いましたが(そんな先ではカタクリさえ終わってる)。 でもいったい、いつなのか? 読めなくなってしまった〜。

 

 カイコバイモ  2012.04.01
 2012.04.01

 

 週末行くべきか迷っていたところ「25日現在最低3個は咲いてますヨ!」と大変貴重な情報を寄せて下さった方がいました。 ありがたいですね〜 こんな時は本当にホームページを作っていてよかったと感じます。

 31日は荒天のため我慢して見送り、翌4月1日は5時に起床し、一目散に現地に向かいました。 そして4度目の挑戦で感動の初対面を果たしたのです。

 

 カイコバイモ  2012.04.01
 2012.04.01

 

 カイちゃんを初めて見たときの第一印象は、「花が丸っこい!」でした。 コシノコバイモやミノコバイモは、花被片の上部に角張った部分があるのが特徴で、細めの釣鐘形す。 しかしカイコバイモは角張った部分はほとんど目立たず、丸みを帯びていて、やや広めの釣鐘型でした。 このためか先の2種よりも優しい印象を受けました。

 

 カイコバイモ  2012.04.01
 2012.04.01

 

 葉は上部の3枚は輪生し、下部の2枚は対生します。 対生する2枚の方が輪生する3枚より幅が広く、長さも長いです。 茎は直立し、高さは10〜12cmほどでしょうか。 茎の色は暗紫色でした。

 

カイコバイモ 2012.04.01
 2012.04.01

 

 花被片の長さは1.2〜1.5cmほど。 花被には淡紫褐色で網目状の斑紋があります。 内花被片の縁は、コシノコバイモのような小突起はありません。 下側の対生した2枚の葉と上側の輪生した3枚の葉の間の長さは5mmもなさそうで、遠目には同じ場所から5枚の葉が出ているようにも見えてしまいます。 コシノコバイモやカイコバイモが上下の葉の間の長さが1cm以上ありそうなのと比較すると短いです。 これは識別のポイントになるかも知れません。 しかし多数の個体を比較した訳ではないので、断定はできません。

 

 参考まで下にコシノコバイモとミノコバイモを載せます。 それぞれの専用ページへのリンクも付けました。


 コシノコバイモ  2008.04.06 新潟県
 コシノコバイモ  2008.04.06 新潟県
 ミノコバイモ  2010.04.04 岐阜県
 ミノコバイモ  2010.04.04 岐阜県

 カイコバイモ 2012.04.01
 カイコバイモ 2012.04.01

 

 ロープで立ち入り制限されています。 このような処置は必要と思いまが、一番群生している場所は4〜5m離れ望遠レンズがないと撮影は厳しいです。 一番近くても1.5m離れ、しかも横を向いてしまっている(一番上の写真です)。 しかしどうしても花の中が見たかったので、二人で隅から隅まで地を這うように探し回り、とうとう眼の前で見ることができる株を発見しました! 神は花好き夫婦を見捨てなかった。

 

 花被はコシノやミノよりも大きく開いています。 ミノは花被の斑紋が明らかに外側より内側が濃いのですが、カイちゃんは? と興味津々で見ましたら、外側とあまり変わらない濃さに見えました。


 カイコバイモ 2012.04.01
 カイコバイモ 2012.04.01

 

 カイちゃんの花の中です。 花糸はわずかに緑色がかった白色で、滑らかに見えます。 葯は白色。 花粉はわずかにクリーム色がかった白色。 この写真ではよく見えませんが、柱頭は3裂します。

 

 花被の内側にある帯状の黄緑色の部分が、蜜腺体かな? 上の写真の一番下側の内花被の蜜腺体に、3つほど突起状のものが見えます。 図鑑によると蜜腺は花被の基部に近いとあるので、黄緑の帯の基部付近の色が暗い部分が蜜腺ではないかと思います。

 

 ところで、6個ある雄しべのうち4個は完全に花粉を出しているのに、2個は柱頭をガードするかのように寄り添い、葯のままです。 どうしてなのかな〜? 2個の雄しべも、この後花粉を出すのでしょうか?


カイコバイモ 2012.04.01
 2012.04.01

 

 一番小さいカメラを花の下に差し込み、構図もピントもカメラ任せで撮影した1枚です。 被写体には触れないようにしているので、下向きの花の中を撮影するにはこうするのが有効です。

 花被にピントが合っていますが、柱頭が3裂していることはわかります。 逆光で見るカイちゃんもなかなか良いものです。

 

 カイコバイモ  2012.04.01
 カイコバイモ  2012.04.01

 

 一番密度が高かった場所です。 900mm相当のレンズで撮影。 畳半畳分ほどの面積に20株以上咲いていました。 もう少し引いた写真で、花を数えるために矢印をつけた写真を作りました。 こちらのページにあるので、ぜひ覗いて下さい。

 

 この密集箇所に23株。 すぐ下の斜面に4株。 遊歩道を挟み反対側の斜面に4株。 さらに下に下り湿地付近に5株。 すべて撮影しました。 合計36株は、確実に花がありました。 来年はもっと増えていてくれることを切に願います。

 

 コバイモの仲間には、すでに見ることができたコシノコバイモとミノコバイモの他に、ホソバナコバイモ、トサコバイモ、アワコバイモなどがいます。 いつか必ず見てみたいものです。

 

< 補足 2018.04.11 追記>

 

 この観察地のカイコバイモは「他所から持ち込まれて植栽されたものではないか」との記述を何度か目にしたことがあります。 その噂の根拠になるものは見たことがありませんが、確かに当地は持ち込み・植栽が疑われる植物が何種類ももあります。

たとえばミスミソウやセツブンソウなどです。

 

 ある著名な植物研究者の方が書かれた論文に出会いました。 多くの図鑑なども執筆していらっしゃる方ですが、ここではA氏と書かせていただき、論文のタイトルは伏せます(論文は誰でも閲覧可能で観察地名も記載されているため)。

 

 論文は、A氏の少年時代から現在に至るまでの植物との関わりの歴史や、調査の成果、植物の分布の変遷や盛衰、稀少植物種の保全への取り組みなどについて書かれていますが、その中で興味深い箇所がありました。

 

 A氏は、少なくとも1966年には、植物学者の大井次三郎先生と共に、当地でカイコバイモを観察されていたのです(当時はコバイモとされたようです)。 写真付きで紹介されていました。 大井先生は牧野富太郎先生と並んで日本の植物分類学の基礎を築いた方です(植物の学名に命名者名として Ohwi とあるのは大井先生です)。 自生か植栽かの検討も当然されたことと思います。 1971年には、市の要請でA氏らが植物調査を行い、自生種のひとつとして報告されています。その後1979年、植物研究者の鳴橋直弘氏によりカイコバイモとされたそうです(北陸の植物 第26巻4号)。

 

 A氏と大井先生らが観察する以前に、当地にカイコバイモが植栽された可能性はゼロと断言できません。 しかしコバイモの仲間は自家受粉がうまくできないため、もし数株を持ち込んでも群生を成すことは難しく、それなりの大きな規模で植栽し、かなりの期間管理を継続しないと、世代を継続させ定着させることは困難であると思います。 A氏らが観察したのは半世紀以上も前です。 更にそれより前にそのような大規模の植栽活動が行われたのであれば、調査過程でA氏らに情報が入らなければ、とても不自然なことです。

 

 以上より、当地のカイコバイモは植栽ではなく、自生種である可能性が非常に高いと思いました。 ただし当地が開かれてから半世紀近くを経ているので、当地内での移植は、あり得ないことではないと推測します。

− 以上 −

 

カイコバイモ

 

東京都、山梨県、静岡県の落葉樹林下に生える多年草。 自生地は極めて限定されます。 他の特徴は本文をご参照下さい。

 

 

2012.04.04 掲載

 

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ユリ科  絶滅危惧種

 

 

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コシノコバイモ
 コシノコバイモ
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コメント: 4 (ディスカッションは終了しました。)
  • #1

    流れ星 (火曜日, 10 3月 2020 14:16)

    昨日、同じ場所で見できました。植栽でない旨の文章を読ませて頂きました。多分そうですね。分布域が狭い植物ですので植栽だと確かにこの株数にはなりませんもの。
    今年は開花がとっても早く2月中旬から咲いたそうです(20年ほど観察されてる方の話)。昨日が盛期だったそうです。地元のトサコバイモは例年よりさほど早くなく、4・5日はやくて2月下旬に満開で多分150花ほど楽しめました。

  • #2

    HiroKen (水曜日, 11 3月 2020 06:59)

    流れ星さん、こちらに来られたのですね。トサコバイモはいつか見てみたいものです。

  • #3

    流れ星 (水曜日, 11 3月 2020 16:15)

    トサコバイモ・アワコバイモ同時期に見られます。標高高い場所ですのでまだ咲いていません。もし、来られることがあればどうぞ。

  • #4

    HiroKen (日曜日, 15 3月 2020 10:26)

    ベストな時期は4月上旬〜中旬位でしょうか。機会がありましたら、よろしくお願いいたします。