キタヤマオウレン

 

北山黄蓮 キンポウゲ科 オウレン属

Coptis kitayamensis Okuyama ex Kadota

#1 キタヤマオウレン   2010.04.03 岐阜県
#1 キタヤマオウレン   2010.04.03 岐阜県(#1〜# )

 

 本州の日本海側(岐阜県・福井県・滋賀県・京都府)の山地の林内に生える、常緑の多年草です。  高さは5〜10cmで、果実期には15cmになります。 外見や匍匐枝(ストロン)(註1)を持つ点でバイカオウレンの近縁と考えられますが、別種です。

 

 2011年に新種として発表されました(*1)。 このため古い図鑑には載っていません。  2014年に改訂された山渓ハンディ図鑑「高山に咲く花」では、p.101に記載されています(*2)。 本ページを執筆している2017年5月現在、インターネット上の個人のホームページなどによる情報発信(*3 など)は、まだ少ない状況でした。

 

#2 渓流沿いの斜面に咲くキタヤマオウレン
#2 渓流沿いの斜面に咲くキタヤマオウレン

 

 地下匍匐枝を持つことが、本種の大きな特徴の一つです。 私たちは植物の根を掘り返して観察することはしないので、直接、匍匐枝を見ていませんが、掲載した写真はキタヤマオウレンであることは、岐阜県における本種の発見者に確認済みです。

 

 このページでは、地下匍匐枝以外のキタヤマオウレンの特徴を見ていきたいと思います。

 

#3 キタヤマオウレンの葉は根生し、葉柄の長さは1〜8cmで、葉は普通三全裂する
#3 キタヤマオウレンの葉は根生し、葉柄の長さは1〜8cmで、葉は普通三全裂する
#4 キタヤマオウレンの葉  葉脈が目立ちます
#4 キタヤマオウレンの葉  葉脈が目立ちます
#5 キタヤマオウレン Coptis kitayamensis の三裂葉
#5 キタヤマオウレン Coptis kitayamensis の三裂葉

 

 葉は普通、三全裂します。 葉脈は葉の表面に隆起し目立ちます。 小葉は、頂小葉と側小葉とも倒卵状ひし形で、先端は鈍く、小葉柄は不明瞭です。 頂小葉は浅く3裂し、倒卵状ひし形。 長さ1〜5.5cm、幅0.3〜3cm、基部はくさび形。 側小葉は上半部で3裂するか、あるいは中部で2浅裂〜深裂します。 写真#5の葉は、2〜3浅裂しています。

 

 比較のため、バイカオウレンの葉を見てみましょう。

 

#6 バイカオウレン Coptis quinquefolia の葉  2013.04.20 長野県
#6 バイカオウレン Coptis quinquefolia の葉  2013.04.20 長野県

 

 バイカオウレンの葉は五全裂し、小葉は倒卵形で、浅く3裂し、細かな鋸歯があります。 キタヤマオウレンの小葉柄がほとんど無いように見えるのに対し、バイカオウレンの葉には、短いながらも小葉柄と呼べるものがあります。 やや微妙な差ですが、両種の識別項目の一つとして注目すべきです。

 

 「小葉柄がどうのよりも、小葉の数が違うのだから、識別は簡単では?」そんな声が聞こえてきそうです。 しかし、キタヤマオウレンにも、五全裂する葉があるのです。 次に示します。

 

#7 キタヤマオウレンの5裂葉(中央・左)
#7 キタヤマオウレンの5裂葉(中央・左)

 

 キタヤマオウレンの葉は、基本は三全裂ですが、五全裂する葉もあるのです。 発表論文(*1)のタイプ標本の写真にも、五全裂した葉が含まれています。 このため三全裂する葉を基本としつつも、五全裂の葉が含まれることが、キタヤマオウレンの特徴の一つになると思います。 発表論文では、「側小葉は普通粗い鋸歯があるか二浅裂〜中裂する、時に二深裂し掌状五全裂となる」と記載されています。

 

 更に発表論文には、「分布域の西部(福井県西部,滋賀県北部,京都府東部)には葉身が掌状に五全裂して一見バイカオウレンに似た個体が出現する」ともあります。これは「すべての葉が五全裂するものもありますよ」という意味と解釈しました。

 

 それこそバイカオウレンと見間違えてしまいそうですが、「本種は頂小葉と側小葉は共に倒卵状菱形で,先端は鈍く,基部は楔形で柄が不明瞭であることでバイカオウレンと区別することができる」とありました。 しかし、葉全体の形状や、基部の形状は似ているので、識別は難しいようにも思えます...。 やはり小葉柄に注目すべきでしょうか。 

 

 次に、花を詳しく見てみましょう。

 

#8 キタヤマオウレンの花
#8 キタヤマオウレンの花

 

 キタヤマオウレンの花の直径は、1.5〜2cm。 花期は、発表論文では5〜6月とされていますが、私たちが見ることができたのは、4月の初旬でした。 早いですが、自生する地域や標高、その年の気象条件などにより、変動があるのだと推測します。

 

 白い花弁に見える部分は、萼片です。 萼片は5個で、挟倒卵形。 長さは 7〜10mm、幅は約5mm。 白色で、先端は丸みを帯びます。

 

 花弁は、先端が黄色い部分です。 5個あり、長さは約4mmで、長い爪(白い柄の部分)があります。 黄色い舷部は蜜腺で、柄杓形(ひしゃくがた)をしており、直径約1mmです。

 

 雄しべは長さ4〜6mm。 葯は楕円形、白色で、長さ約0.5mm。 観察時は葯の一部は裂開し、白い花粉を出し始めていました。 糸状の花糸は、発表論文に「下部で少し太くなる」とありますが、このページに掲載した写真では、それは明確にはわかりませんでした。

 

 花茎は、発表論文では「紫色がかった花茎」「花茎は暗紫褐色」と記載されており、ネットの情報(*3)では「花茎は褐色」とあります。 今回観察できた個体の花茎は、わずかに褐色を帯びた淡緑黃色〜淡褐色でした。 花茎の色は個体差があるようで、近縁種であるバイカオウレンとの識別項目には使いにくいと感じました。

 

 次に、花弁についてもう少し詳しく見てみましょう。

 

#9 キタヤマオウレンの花  花弁舷部の形状に注目して下さい
#9 キタヤマオウレンの花  花弁舷部の形状に注目して下さい
#10 バイカオウレンの花  花弁舷部の形状に注目して下さい  2013.04.20 長野県
#10 バイカオウレンの花  花弁舷部の形状に注目して下さい  2013.04.20 長野県
#11 キタヤマオウレン(左)とバイカオウレンの花弁舷部の形状比較
#11 キタヤマオウレン(左)とバイカオウレンの花弁舷部の形状比較

 

 写真#9〜#11でキタヤマオウレンとバイカオウレンの花弁舷部の形状を比較してみました(註2)。 キタヤマオウレンの花弁舷部は、やや縦長の楕円形で、花の中心方向が開口した形状となっていました。 発表論文ではこれを「柄杓状になり(扁平ではなく」 " ladle-shaped (not flattened) nectary blades" と表現しています。

 

 これに対しバイカオウレンの花弁舷部は、ほぼ円形であり、花の中心方向の開口はなく(わずかに窪んではいる)、爪部の先に皿がついたような形になっています

(こちらの方が「柄杓状」に近い気はしますが)。

 

 以上のように花弁舷部の形状の差異は明確で、両種の識別点として有効と言えます。

 

 新種キタヤマオウレンの特徴と、近縁種と考えられるバイカオウレンとの違いを見てきました。 以下はキタヤマオウレンの特徴のまとめです(*1 より引用)

 

 1. 花弁の舷部は柄杓状(平坦な皿状ではない)。

 2. 葉はバイカオウレンより大型で,葉身は普通三全裂する。

 3. 頂小葉は倒卵形で、基部はくさび形となって小葉柄が不明瞭であり、

   側小葉は上半部で3裂するか、あるいは中部で2浅裂〜深裂する。

 4. 花は直径(16–)18〜24mm で、バイカオウレン(12〜18mm)より大きい。

 5. 萼片は倒卵状楕円形で、長さ(8–)9〜12mm、幅(2–)4.5〜5.5mmで、

   より細長く、爪(柄)が明瞭に認められる。

 6. 花茎はより太く、かつ暗赤紫色である。

 

 

< この植物は? >

#12 キタヤマオウレンとされている植物 【植栽】  2017.03.12 東京都
#12 キタヤマオウレンとされている植物 【植栽】  2017.03.12 東京都
#13 キタヤマオウレンとされている植物
#13 キタヤマオウレンとされている植物

 

 2017年3月、近くの植物園でキタヤマオウレンが咲いているとの情報を得られたので、勉強のために見に行きました。 植木鉢に植えられたその植物を見て、「アレ? これがキタヤマオウレン?」と思ってしまいました。  自分たちの記憶にあるキタヤマオウレンと、かなり印象が違ったのです。 自生地とは異なった環境で育てられているということを差し引いても、ずいぶん違った姿と映りました。

 

 まず気になったことは、すべての葉が五全裂していることです。 三全裂の葉はつけていませんでした。 前述(#7の説明)の通り、一部の地域には五全裂の葉をつける個体が出現するそうです。 その地域から来たものでしょうか。 まずは、葉を詳しく見てみました。 次の2枚の写真は、マウス・オーバーで拡大写真を表示します(スマホはタップ)。

 

#14 キタヤマオウレン? の越冬葉

#15 キタヤマオウレン? の普通葉

 

 #14 は褐色の葉で、越冬葉と思われます。 #15 は緑色の通常葉。 小葉柄はどちらもほとんど無いに近く、非常に不明瞭でした。 #5,#6と見比べると、これはキタヤマオウレンの特徴と合致します。  これだけを見ると、キタヤマオウレンとして間違いなさそうです。 次に、花を見てみます。

 

#16 キタヤマオウレン? の花
#16 キタヤマオウレン? の花

 

 最も気になったのが、花弁舷部の形状です。 #16の花弁 a の舷部はたまたま花糸に邪魔されず、鮮明に形状がわかります。 形状は円形で、花の中心方向が開口していないように見えるのです。 これは前述のように、キタヤマオウレンではなく、バイカオウレンの特徴です。

 

 一方、 b の舷部は花糸が邪魔していますが、やや楕円形で、花の中心方向が開口しているように見えます。 これはキタヤマオウレンの特徴でした。

 

#17 #16の拡大  舷部の形状が花弁により異なるように見える
#17 #16の拡大  舷部の形状が花弁により異なるように見える

 

 つまり、一つの花の中に異なった特徴がある花弁が存在することになります。 2010年のキタヤマオウレンの観察個体数は非常に少ないので、こういったことはないとは言えません。 しかし、種としての基本的な特徴に乱れが生じているようにも思えます。 もしそうであれば、この個体はキタヤマオウレンとバイカオウレンの種間交雑種である可能性もあると思います。

 

 新種発表論文が葉が三全裂する個体を前提に述べられており、五全裂する個体についてはわずか1行しか触れられていないことからも、五全裂のキタヤマオウレンは分布域が限定されたマイナーな存在であると言えると思います。 そのマイナーなはずの個体が植物園に来ていること自体、やって来た経緯と経路を確認したくなることです。

 

 以上のように、植物園の個体は、キタヤマオウレンとしてほぼ間違いないと思われるものの、いくつか気になる怪しい点も併せ持つ植物でした。 しかしこの植物を見たことが、本ページ作成の動機にもなったのでした。 

 

 

< 参考・引用させていただいた文献・書籍とwebサイト > 

*1 本州産オウレン属(キンポウゲ科)の1新種、キタヤマオウレン

   Coptis kitayamensis (Ranunculaceae), a new species from Honshu, Central Japan 

   著者:国立科学博物館植物研究部 門田 裕一

   植物研究雑誌 The Journal of Japanese Botany 第86巻 第5号 p.265-272

   2011年11月20日 発行

*2 山渓ハンディ図鑑8 増補・改訂・新板 高山に咲く花

   山と渓谷社 2014年4月15日 初版第1刷発行

*3 一日一花 季節の野草

   キタヤマオウレン (北山黄蓮) キンポウゲ科 オウレン属

   http://okuchan-yasou.sakura.ne.jp/kobetu/ka/ki/kitayamaouren.htm

   キタヤマオウレン (北山黄蓮) キンポウゲ科 オウレン属

   http://okuchan-yasou.sakura.ne.jp/harunoyasou63.htm

 

※ 外部サイトは、それぞれの運営者の都合により、変更・削除されることがあります。

 

< 註 >

註1:当サイトでは、用語「匍匐茎・匍匐枝(ストロン)」と「走出枝(ランナー)」を、

    特に区別せずに使用しています。

註2:写真#9〜#11 は倍率を統一していないため、大きさの比較はできません。 

註3:「三全裂」「3裂する」など、漢数字と算用数字を使い分けています。 違和感を感じられる

   部分があるかも知れませんが、ご理解願います。

 

2017.05.17 掲載

2017.05.18 一部小修正

 

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キタヤマオウレンが掲載されたページ

 Dairy-Hiroダス

  2017年3月12日 キタヤマオウレン考

 

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