参考情報
Coptis kitayamensis (Ranunculaceae), a New Species from Honshu, Central Japan
本州産オウレン属(キンポウゲ科)の1新種,キタヤマオウレン
著者:KADOTA Yuichi (National Museum of Nature and Sci., Tsukuba, JPN)
資料名:植物研究雑誌 86巻 5号 p.265-272
発行年:2011年10月20日
門田裕一:本州産オウレン属(キンポウゲ科)の1 新種,キタヤマオウレン
キンポウゲ科オウレン属の新種,キタヤマオウレン Coptis kitayamensis Kadota を記載した.キタヤマオウレンは,奥山春季により原色日本野外植物図譜6 補遺I(誠文堂新光社,1972)にバイカオウレンの変種C. quinquefolia Miq. var. kitayamensis Okuyama として発表されたものである.この学名は裸名であったため,ここでラテン語の記載を与え,タイプを指定した.
奥山も指摘しているように,キタヤマオウレンはストロンをもつことで明らかにバイカオウレンに近縁であるが、
①花弁の舷部は柄杓状になり(平坦な皿状ではない)、
②葉はより大型で,葉身は普通三全裂し、
③頂小葉は倒卵形で基部はくさび形となって小葉柄が不明瞭であり,側小葉は上半
部で三裂するかあるいは中部で二浅裂〜深裂し、
④花は直径(16–)18–24 mm でより大きく、
⑤萼片は倒卵状楕円形で,長さ(8–)9–12 mm,幅(2–)4.5–5.5 mm でより細長く
爪(柄)が明瞭に認められ、
⑥花茎はより太くかつ暗赤紫色であること
などで区別される。
分布域の西部(福井県西部,滋賀県北部,京都府東部)には葉身が掌状に五全裂して一見バイカオウレンに似た個体が出現する。 しかし,本種は頂小葉と側小葉は共に倒卵状菱形で,先端は鈍く,基部は楔形で柄が不明瞭であることでバイカオウレンと区別することができる。
ミツバノバイカオウレンC. trifoliolata Makino は,ストロンを出さないことの他,葯は赤紫色で,葉の鋸歯は少数で粗いこと,そして生育環境が異なること(亜高山帯から高山帯の水湿の草原に生える)でキタヤマオウレンから明瞭に区別できる。
キタヤマオウレンとその類似種との区別点は次のとおりである。
A. 袋果の側面には脈がない;亜寒帯〜寒帯の常緑針葉
樹林林下や湿原などに生える(ミツバオウレン節;周北極要素)
···················· ミツバオウレン C. trifolia
A. 袋果の側面に1 脈がある;暖温帯〜亜寒帯の林下や湿草原に生える(バイカオウレ
ン節;準日本固有要素)
B. 葯は白色あるいは稀に淡い赤紫色を帯びる;地中を横走するストロンがある;
花茎は緑色あるいは紫褐色;葉の鋸歯は多数でやや細かく小葉の全体に分布す
る;暖温帯から亜寒帯の林下に生える
C. 葉は五全裂し,小葉は倒卵形で,小葉柄が明瞭;花弁の舷部は皿状;花茎は細
く,普通緑色 ………………… バイカオウレンC. quinquefolia
C. 葉は三全裂し,小葉は倒卵状菱形,基部はくさび形で小葉柄は不明瞭,側小葉
は普通粗い鋸歯があるか二浅裂〜中裂する,時に二深裂し掌状五全裂となる;
花弁の舷部は柄杓状;花茎は太く,暗紫褐色
… … キタヤマオウレンC. kitayamensis
B. 葯は赤紫色;ストロンを出さない;花茎は太く,暗紫褐色;葉の鋸歯は少数で粗
く,小葉の上半部に分布する;亜高山帯から高山帯の水湿地に生える
… ………ミツバノバイカオウレン C. trifoliolata
(国立科学博物館植物研究部)
chartaceous 紙質の
C. quinquefolia → Coptis quinquefolia バイカオウレン
stoloniferous 匍匐茎(ほふくけい)を伸ばす
Coptis minamitaniana sp. nov. ヒュウガオウレン
sp. nov. は、新種の記載であることを示す。