オトメアオイ

 

乙女葵 ウマノスズクサ科 カンアオイ属 カンアオイ節

Asarum savatieri

日本固有種  準絶滅危惧( Near Threatened )

オトメアオイ  2009.11.08 静岡県東部(このページの写真すべて)
 オトメアオイ  2009.11.08 静岡県東部(このページの写真すべて)

 

 名の由来は、花の姿が乙女を思い起こさせるから... ではもちろんなく、箱根の乙女峠で発見されたからです。 箱根や天城山系にのみ生える、多年草です。 葉は腎円形で、長さは5〜7cmと、わりと小さめです。

 

 花は5月〜7月に開きますが、普通葉は出ません(鱗片葉は出ます)。 花はそのまま年を越し、翌年の5月〜6月に結実しますが、そのときに普通葉が出ます。 その年、新しい花はつけません。 そして次の年は、また花を咲かせ、普通葉はつけない。 つまり花と普通葉は、1年おきに交代して形成されることが特徴です

 

 このような変わった生態は、他の寒葵の仲間には見られないそうです。 なぜ花と葉を同時に形成しないのでしょうね? それだけのパワーがないのかな? あるいは、別の理由があるのか...? カンアオイ属は、葉や花の形態だけでなく、その生態も多様性に富んでいますね。 カンアオイの仲間は、分布を拡大する速度が極端に遅いので、生育域の環境に左右されやすく、このため各地に固有の種が分化しているそうです。

 


 箱根の乙女峠って、どこだ〜? と思って地図を探ったら、簡単に見つかりました。 発見地であるここにも、まだいるのでしょうか? 今回の撮影地は、とんでもなく離れている訳ではありませんが、まったく別の場所でした。


オトメアオイの花には、緑色をしたものもいます
 オトメアオイの花には、緑色をしたものもいます

 

 カンアオイ属の花と言えば、地面にくっつくように咲いて、暗〜く、地味〜な花が多いと思っていました。 でもオトメアオイには、緑色と暗い紫褐色の花がいるのです。 このときは、両方を見ることができました。 緑色をしたカンアオイ属の花は見たことがなかったので、とても新鮮な印象を受けました。

 

オトメアオイ

 

 このような感じで咲いていました。 葉は腎円形で、

長さ5〜7cmほど。 葉の緑白色の斑紋が目立ちました。

 

オトメアオイの緑色の花

 

 なかなか鮮やかで美しい色です。 あ、もしかすると

今初めてカンアオイ属の花を「美しい」と思ったかも。

今まで「面白い」とは思っても「美しい」とは思った事

はなかった気がします。

 

オトメアオイの緑色の花

 

イイ色です! 萼筒部には、黒っぽくて細い縦線が見えます。

 

紫褐色の花をつけたオトメアオイ
 紫褐色の花をつけたオトメアオイ

 

 さてこちらは紫褐色の花。 緑色の花をつけた

個体と、花色以外の差異はないように見えました。

葉柄の色も、両方とも紫褐色でした。

 

オトメアオイの紫褐色の花

 

 紫褐色の花は... 渋いです。 華やかさはまったくありません。 乙女どころか、いぶし銀の中年男です。  萼裂片には、わずかに緑色も入っているように見えました。

 

 萼筒口、つまり丸く開いた穴の部分には、ややいびつな環(口環)があります。 萼筒の内面には、縦に走る15〜21条の細い隆起線があり、横にも何条か隆起線が入って、格子状になるそうです。 この隆起線の数や形状が、カンアオイ属の同定に有力な手がかりになるそうです。 でも暗くてまったく見えませんね。 萼筒の中には、12個の雄しべと6個の花柱があるはずですが、ライトがなかったのでそれらが見える写真は撮れませんでした。


 図鑑には、花をズバッと縦に切断した断面の写真が載っていますが、私たちはそういったことはしないので、外から見える範囲での観察になります。

 

オトメアオイの花

 

 花の径は1.5cmほど。 先ほどから「花」と言っていますが、写真で見えている部分は、萼です。 花弁に相当する器官はないか、退化して非常に小さいです。 またあっても萼筒の中なので、外からはなかなか見えにくい。

 

 カンアオイ属では3個の離生した萼片が、下半分ほどは合着または接着して、鐘形や筒形、または壺形を形成します。 萼片の上半分は3つに分かれて開き、平開するか、種によっては反り返ります。

 

オトメアオイの萼筒のくびれ

 

 少しアングルを変えた写真です。 紫褐色の花の萼筒にも、緑色の花と同様に黒っぽい縦線が見えます。 萼筒は丸みを帯びた円筒... 要するに樽(たる)形ですね。 樽の部分の長さは、1cmほど。 樽の上部(写真では下側)には、わずかに「くびれ」があります。 このことがどれほど重要かわかりませんが、初め図鑑がどこのことを言っているのかわからず、悩みました。 写真の矢印の部分を言っていたのです。  数ヶ月も経つとまた忘れそうなので、しっかり図示しておくことにしました。 

 

 珍しい花を見ることができて、大満足でした。 自生地に案内いただいたお花の大先輩に感謝いたします。

 

ご参考(カンアオイ属の分類に関する外部サイト):カンアオイ属(Wikipedia)


 

2015.11.15 掲載

 

 

コメント: 4 (ディスカッションは終了しました。)
  • #1

    かりん (火曜日, 17 11月 2015 09:46)

    毎回楽しみに拝見させていただいています。
    知らないことばかりで勉強になります。

    最後の2点の個体はちょっと変わった形ではないかと思います。
    このあたりにはもう1種 「シイノミカンアオイ」があると聞いています。
    判別がつかず小生も困っています。
    カンアオイにハマると段々とわからなくなります。

  • #2

    HiroKenのKen (火曜日, 17 11月 2015 21:57)

    かりんさん、ご指摘ありがとうございます。
    最後の2枚の写真は、シイノミカンアオイの可能性あり、ということですね。
    恥ずかしながらシイノミカンアオイは知りませんでした。
    オトメアオイの変種なのですね。伊豆半島に分布するとのことですが、ここは
    伊豆半島の根本あたりなので十分可能性がありますね。
    今後また見る機会がありましたら、花の大きさなど詳しく調べてみたいと思います。
    今後もお気づきの点がありましたら、お気軽にコメントをお寄せ下さい。

  • #3

    ゆき (土曜日, 12 12月 2015 17:23)

    こんばんは、HIROさん、kenさん、オトメカンアオイの詳しいお話し、ありがとうございます、お花が、かわいらしい、所やグリーンのお花など、見ていて、楽しいですね、オトメカンアオイのみに、見られる、特異性や生育環境が重複する場所での多品種との交配で、変わった個体も、見れそうですね。

  • #4

    HiroKenのKen (日曜日, 13 12月 2015 04:49)

    ゆきさん、いらっしゃいませ。
    日本にはカンアオイ属は約50種もいるようで、その多様性に驚きます。 おっしゃる通り、生活環境が重なる場所での交雑種も多数いるのでしょうね。 今後研究が進み、それらも新しい種として発表されるかも知れませんね。