コシノチャルメルソウ

 

越の哨吶草 ユキノシタ科 チャルメルソウ属

Mitella koshiensis Ohwi

#1 コシノチャルメルソウ    2006.05.06 新潟県燕市 alt=36m
#1 コシノチャルメルソウ    2006.05.06 新潟県燕市 alt=36m

 

 コシノチャルメルソウは、チャルメルソウ属の中でも大型の種で、新潟県と富山県にのみに分布します。 日本固有種です。 両県にはもう1種、コチャルメルソウが分布しますが、コチャルメルソウが本州、四国、九州と広範囲に分布するのとは対象的に、地域限定の種です(*1)。 新潟県ではほぼ全域に分布しますが、分布の北限は新潟市西浦区の角田山あたりで、日本海沿いに富山県下新川郡の朝日町付近まで分布します(*2)。 海岸沿いの地域中心に分布し、一部を除きあまり内陸深くにはいません。 新潟県の北東部、内陸部および佐渡島では、コチャルメルソウが見られます(*1)。 変わった名前の植物ですが、由来については末尾で説明します。

 

#2 小さな滝の両岸に群生していた 2006.05.06 新潟県燕市
#2 小さな滝の両岸に群生していた   2006.05.06 新潟県燕市
#3 コシノチャルメルソウは渓流沿いに生える 2006.05.06 新潟県燕市
#3 コシノチャルメルソウは渓流沿いに生える   2006.05.06 新潟県燕市

 

 一般的に海抜30〜150mの、急峻ではない沢筋の水流沿いに限って生育しています(*2)。 写真#2・#3は私たちが観察した場所の一つですが、海岸からの直線距離は約4kmで、海抜は約36mでした。 小さな滝の両脇の、水しぶきがかかるような場所と、その下の渓流沿いに生えていました。 本種の花期は4〜5月です。

 

#4 コシノチャルメルソウの花茎の高さは15〜50cmで、30〜40cmが多い 2006.05.06 新潟県燕市
#4 コシノチャルメルソウの花茎の高さは15〜50cmで、30〜40cmが多い

 

 本種を初めて目にしたとき、コチャルメルソウを見慣れた目には、非常に大きく見えて驚きました。 これに対して今回参照した2つの図鑑(*3,*4)には、それぞれ「花茎は高さ15cm位になり」「花茎は高さ約15センチ」と解説されていて、とても意外な印象を受けました。 なぜなら私たちが観察した複数の場所では、高さ30〜40cmがほとんどで、中には50cmを超えていそうな大型の個体もいたからです。 図鑑の解説とあまりにもかけ離れていたのです。

 

 ところで、この2つの図鑑には、いずれも「葉の長さは3〜6cm」と書かれています。 非常に乱暴ですが、図鑑に掲載されている画像の中で一番大きな葉の長さを6cmと仮定し、その画像の花茎の高さを葉の長さで除算すれば、おおよその高さがわかりそうです。「山に咲く花」(*4)の画像では、この方法で高さは約16cmとなり、解説と合致した画像ではありました。

 

 一方の図鑑「日本の野生植物」(*3)の画像では、高さは約32cmとなり、解説と画像が矛盾します。 逆にもし画像の花茎の高さが15cmであったならば、一番大きな葉は長さは3cmほどになり、それより小さい長さ1〜2cmの葉が多数あるということになるので、これもまた解説と画像が矛盾します。

 

 推測ですが、過去に本種が記載されたときの標本個体が、たまたま小型で高さ15cmほどであり、以後その情報が延々と図鑑に引き継がれ続けているのだと思います。 今後どこかの段階で見直されることを期待します。

 

 当サイトでは、観察サンプル数が多くないこともあり、花期の花茎の高さを幅を持って「15〜50cmで、30〜40cmが多い」とします。

 

#5 コシノチャルメルソウの根生葉には柄がある
#5 コシノチャルメルソウの根生葉には柄がある
#6 コシノチャルメルソウの根生葉の葉柄には長毛が生える
#6 根生葉の葉柄には長毛が生える

 

 #5は根生葉の様子です。 地下の根茎は斜上あるいは直立し、コチャルメルソウのような匍匐枝(走出枝)は出さず、先端に根生葉を束生します。 根生葉は長さ3〜10cmの柄があり、長毛が密生します(#6)

 

#7 コシノチャルメルソウの葉 2013.05.03 新潟県魚沼市 alt=104m
#7 コシノチャルメルソウの葉   2013.05.03 新潟県魚沼市 alt=104m

 

 #7は本種の根生葉です(ちなみに茎葉はありません)。  葉身は卵形〜広卵形で、浅く5裂し、縁には不ぞろいの鋸歯があります。 基部は心形で長さは3〜6cm、幅は3〜5cmで、先端はやや尖り、両面に白色の長毛があります(*3)

 

 本種は、形態的にはコチャルメルソウとチャルメルソウあるいはミカワチャルメルソウの中間のようであり、実際に両種の雑種の後代では、本種に似た形質を持つことから、雑種起源の種であることが疑われるそうです(*1)。 そこで葉の形状をコチャルメルソウ、ミカワチャルメルソウと比較してみました(チャルメルソウは未見です)。

 

#8 葉の形状比較 左:コシノチャルメルソウ(燕市)、右:コチャルメルソウ(八王子市)
#8 葉の形状比較 左:コシノチャルメルソウ(燕市)、右:コチャルメルソウ(八王子市)

 

 #8は燕市の本種と八王子市のコチャルメルソウの葉(裏面)の比較です。 本種の裂け方が、かなり浅いことがわかります。 本種の葉の基部は両側から重なり合っていてよく見えませんが、同じような深さの心形となってます。

#9 葉の形状比較 左:コシノチャルメルソウ(燕市)、右:コチャルメルソウ(木曽郡)
#9 葉の形状比較 左:コシノチャルメルソウ(燕市)、右:コチャルメルソウ(木曽郡)

 

 #9は、本種と長野県木曽郡のコチャルメルソウとの比較です。 こちらのコチャルメルソウは裂け具合が浅く、裂片も丸みを帯びているので、本種と類似している印象です。

#10 葉の形状比較 左:コシノチャルメルソウ(燕市)、右:ミカワチャルメルソウ(豊田市)
#10 葉の形状比較 左:コシノチャルメルソウ(燕市)、右:ミカワチャルメルソウ(豊田市)

 

 #10は、本種とミカワチャルメルソウの比較です。 かなり似ていますが、ミカワチャルメルソウがやや裂け方が深く、裂片が鋭い。 両種の心形の基部は、よく似ています。

 

 以上比較してみましたが、本種はコチャルメルソウとミカワチャルメルソウの特徴を併せ持つようでもありますが、なんとも言えませんでした。 ひとつの参考資料としてご覧下さい。

 

 尚、それぞれの葉は無作為に近い形で選んだもので、標準的な形状として選んだものではありません。 また撮影時のスケールは異なり、画像処理で同じような大きさにして並べたものなので、葉の大きさの比較はできません

 

#11 コシノチャルメルソウの花茎を伸ばし始めた株
#11 花茎を伸ばし始めた株
#12 コシノチャルメルソウの花序はまだ丸まっていた
#12 花序はまだ丸まっていた

#13 気の早い花が1つ開花していた    2007.03.24 新潟県燕市 alt=36m
#13 気の早い花が1つ開花していた    2007.03.24 新潟県燕市 alt=36m

 

 #11〜#13は、花茎を伸ばし始めたばかりの若い株です。 ネットで調べてもなかなかこの時期の画像は見つかりません。 高さは10cmにも満たなかったと思います。 花序はまだ強く丸まっていました。 萼が少し開き、中の紅紫色の花弁が覗いています(#12)。 花序がまだこんな状態なのに、もう気が早い花がひとつ、咲き出していました(#13)。 周辺ではミチノクエンゴサクオトメエンゴサク、ナガハシスミレなどの春の花々が見頃となっている時期でした。

 

#14 コシノチャルメルソウの大型株の花数は40個前後
#14 コシノチャルメルソウの大型株の花数は40個前後

 

 成熟した株は、花茎を直立またはやや斜上させ、大型の株では多数の花をつけます。 花茎の基部より1/4〜1/3から上に長い花序をつくり、花を互生します。

 

 花の数については、図鑑(*3,*4)には記述がありません。 外部サイト(*5)では「20個前後」と書かれていました。 もっと多そうだと思ったので、元画像データを目一杯拡大して数えてみました。

 

 その結果、写真#1の右から2番めの花茎では44個、#3の一番右下の株で40個、そして#14の中央左寄りの株で36個の花をつけていました。 たった3株しか数えていませんが、「大型株では40個前後の花をつける」と言ってもよいと思います。

小型の株では、花茎の高さに応じて花数も少なくなりますが、少なくとも20個ほどはつけるようです。

 

 仲間の植物はコチャルメルソウのみが同じ地域に生えますが、コチャルメルソウは多くても10個ほどしか花をつけないので、花期には見間違えることはないでしょう。

 

#15 コシノチャルメルソウの花序
#15 コシノチャルメルソウの花序

 

 花は、花序の下方から開花していきます。 下方の花がもう終わろうとしているときに、茎頂付近の花がまだ開花していないことも珍しくありません。 これに対してコチャルメルソウはすべての花がほぼ同時期に開花するので、この点でも識別できます(*5)

 

 花茎は基部付近にのみ白っぽい長毛があり、それより上部は腺毛が密生します。 花柄と萼の外面、そして紅紫色の花弁の外面にも、腺毛状の微突起が密生します。

 

#16 コシノチャルメルソウの花   2006.05.06 新潟県燕市
#16 コシノチャルメルソウの花   2006.05.06 新潟県燕市

 

 萼筒は皿型のような平たい円錐形です。 萼裂片は広三角形で、開花初期には直立に近く、後に平開〜反曲します。 花弁は紅紫色を帯び、羽状に細く5〜9裂します。

観察した個体では7裂する花弁が多かったです。 裂開前の葯は淡黄色。 花糸は葯より短く、葯が裂開する前は葯に隠れてなかなか見えません。

 

 雄しべは萼裂片と互生します。 また雄しべが花弁からあまり離れず、花弁の基部あたりにあることも特徴のひとつです。 コチャルメルソウの雄しべは、少し花弁から離れた位置(花の中心方向)にあります。 花の中心にある2個の花柱は短く、先端はそれぞれ2裂します(*3)

 

#17 コシノチャルメルソウの開花直後の花
#17 コシノチャルメルソウの開花直後の花

 

 #16は複数の花が重なり合って見えにくいので、#17も掲載します。 花期直後の花では萼裂片が直立している様子がわかります。 また紅紫色の花弁が羽状に7裂している様子もよく見えます。 花弁の裂片は開花直後のためヨレヨレ曲がって見えますが、この後ピンと伸びて、やがて後方に反曲します。

 

#18 果実期のコシノチャルメルソウ 2007.06.02 新潟県 中越地方
#18 果実期のコシノチャルメルソウ    2007.06.02 新潟県 中越地方

 

#18は、果実期の本種です。 遠目には花が咲いて

いるように見えますが、すべて果実になっています。

 

#19 コシノチャルメルソウの果実
#19 コシノチャルメルソウの果実

 

#19は本種の果実です。 次で少し拡大します。

 

#20 コシノチャルメルソウの果実
#20 コシノチャルメルソウの果実

 

 受粉した花は、花後に上を向き、先端がラッパのような形の果実になります(#20)。 これが中国の楽器のチャルメラ(チャルメルともいう)に似ていること、そして越後の国に生育することが、「越のチャルメル草」の名の由来です。

 

 コチャルメルソウのページのこの項には、種子まで写った写真がありますので、興味がありましたらご覧下さい。

 

 

< 参考・引用させていただいた文献・図鑑や外部サイト(順不同・敬称略) >

 文献・図鑑などの著作物や、個人・法人のWEBサイトには著作権があることをご理解の上、ご利用下さい。

 

*1 日本産チャルメルソウ属および近縁種(ユキノシタ科)の自然史  奥山雄大

   Bunrui 15(2): 109-123 (2015)  (第13回日本植物分類学会奨励賞受賞記念論文)

   J-Stageの以下のページからダウンロード可能

   https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunrui/15/2/15_KJ00010115016/_article/-char/ja/

   こちらからも。

   国立科学博物館  研究者紹介 奥山雄大

*2 植物の分布と積雪 ―新潟県およびその周辺地域について―  石沢

   J-Stageの以下のページからダウンロード可能

   https://www.jstage.jst.go.jp/article/turfgrass1972/14/1/14_1_10/_article/-char/ja/

*3 日本の野生植物 草本2 離弁花類  平凡社 1982年3月31日 初版第3刷 p.162,164 

*4 山渓ハンディ図鑑2 山に咲く花  山と渓谷社 2013年3月30日 初版第1刷 p.280

*5 Plants Index Japan(撮れたてドットコム)  比較画面 - チャルメルソウの仲間

*6 Wikipedia  コシノチャルメルソウ

*7 YList 植物和名ー学名インデックス  コシノチャルメルソウ

*8 GKZ植物事典  コシノチャルメルソウ

*9 石黒の昔の暮らし  コシノチャルメルソウ

  

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  最終閲覧:2018.04.08

 

2018.04.08 掲載

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