ムヨウラン

 

無葉蘭 ラン科 ムヨウラン属

Lecanorchis japonica Blume

 ムヨウラン (無葉蘭) ラン科 ムヨウラン属 2009.06.03 東京都
 ムヨウラン (無葉蘭) ラン科 ムヨウラン属 2009.06.03 東京都

 

 初めて見ることができたムヨウランです。 1週間前にも訪れ

たのですが、そのときはまだほとんど開花していない状態であっ

たので、再度訪れて開花した状態を見ることができました。

 

 名の通り葉がなく、葉緑素も持たない菌従属栄養植物です。薄

暗い常緑樹林下にいました。 全体としては地味なので、花にあ

まり興味がなければ、登山道脇に咲いていても気付かないかも知

れません。 しかし近寄ってよく見ると、なかなか魅力的な花で

あることがわかりました。

 

ムヨウラン 2009.06.03 東京都
 2009.06.03 東京都

 

 茎は細く、黄褐色〜褐色で無毛、高さは30〜40cm。

数個の花をつけます。 背景に溶け込んでしまう感じで、

目立ちません。

 

ムヨウラン 2009.06.03 東京都
 2009.06.03 東京都

 

花は斜め下向きに咲きます。

 

ムヨウラン 2009.06.03 東京都
 2009.06.03 東京都

 

花は半開します。 平開することはないようです。

 

ムヨウラン 2009.06.03 東京都
 2009.06.03 東京都

 

 花は斜め下を向きていることがほとんどなので、正面

から撮影しようとすると、下から見上げる形になります。

 

ムヨウラン 2009.06.03 東京都
 2009.06.03 東京都

 

 花は長さ約2cm。 萼片と側花弁はほぼ同長・

同型で、縁は淡い黄色で縁取られ、細い暗紫色の

条が縦に5〜7本ほど入ります。

 

ムヨウラン 2009.06.03 東京都
 2009.06.03 東京都

 

 唇弁は3裂します。 少しわかりにくく申し訳ないですが、

唇弁を基部の方から見ていただきますと、薄い紫褐色の部分

があり、それが白くなった部分に段差があります。 ここま

でが側裂片。 その先は中裂片で、縁はわずかに黄色みを帯

びた白色で、内部には淡黄色の毛状突起が多数あり、美しい。

蕊柱は白色です。

 

ムヨウラン 2009.06.03 東京都
 2009.06.03 東京都

 

 唇弁の毛状突起は、まるで毛足の長いジュウタンの

ようです。 花は下を向いていますが、送粉者の昆虫

はこの毛状突起に乗り、楽に花の中心部に進むことが

できるのではないでしょうか。

 

ムヨウラン 2009.06.03 東京都
 2009.06.03 東京都

 

唇弁の網状突起は、花の中心部に

向かって生えているようです。

.

ムヨウランの副萼の下は、膨らまない  2016.06.04 東京都
ムヨウランの副萼の下は、膨らまない  2016.06.04 東京都

 

 花被と花柄子房の接合部には、副萼と呼ばれる部分があります。 そのすぐ下の部分(花柄子房の最上部)が膨れる/膨れない ことが、種の識別の一つのポイントになります。 ムヨウランは、膨らみません。

 

 副萼の下が膨らまない種としては、本種の他にホクリクムヨウラン、キイムヨウランなどがあります。 膨らむ種としては、エンシュウムヨウラン、ウスキムヨウランなどがあります。

 

 ムヨウランの蕾 2012.05.31 東京都
 ムヨウランの蕾 2012.05.31 東京都

 

 これは開花前の蕾の状態です。 上の花と同じ場所で

3年後に撮影したものです。  場所がわかっていたので

迷わずさ見つけることができましたが、花がないと本当

に目立たず、花に興味がある方でも見逃してしまう可能

性が大きいと思います。

 

 ムヨウランの蕾 2012.05.31 東京都
 2012.05.31 東京都

 

 一つ上の写真をトリミングしたものです。 近縁種の

ホクリクムヨウランには、花茎や花柄子房に(果実にも)

微小突起がありますが、本種にはありません。

 

 黒っぽく小さな苞は、鞘状で花柄子房を支えるように

密着しています。

 

 花柄子房にねじれは見られないので、本種は「ストレ

ート・唇弁下側タイプ」になります。→この点は開花期

に調べるべきことで、判断は時期尚早でした。開花期の

花柄子房のねじれの証拠写真が無いので、タイプ分類は

保留とします(2014.11.06)。

 

 ムヨウランの果実?  2010.04.24 福島県
 ムヨウランの果実?  2010.04.24 福島県

 

 まったく別の場所で見たムヨウランの果実です。 しかし

よく見ると、微小な突起が多数あるように見えます。 その

中でも比較的目立つものに→をつけました。 これらが微小

突起であるならば、ホクリクムヨウランであると思います。

 

 

 ところで「ムヨウラン」と名につく植物を調べてみたら、こんなにありました(下の表)。 地域ごとに異なる特徴を持つ種がいるようです。 見たことがあるのは、本種とヒメムヨウランだけです。 ヒメムヨウランはサカネラン属であるので、ムヨウラン属は本種しか見ていないことになります。 

 数が少なかったり自生地が遠かったりと、見ることが難しそうな花が多いですが、チャンスを作って少しでも多く見てみたいと思います。

 

和名 学名 属名
アリサンムヨウラン Cheirostylis takeoi カイロラン
アワムヨウラン Lecanorchis trachycaula ムヨウラン
イリオモテムヨウラン Stereosandra javanica イリオモテムヨウラン
ウスキムヨウラン Lecanorchis kiusiana ムヨウラン
エンシュウムヨウラン Lecanorchis suginoana ムヨウラン
オキナワムヨウラン Lecanorchis triloba ムヨウラン
キイムヨウラン Lecanorchis kiiensis ムヨウラン
クロムヨウラン Lecanorchis nigricans ムヨウラン
シラヒゲムヨウラン Lecanorchis flavicans ムヨウラン
タネガシマムヨウラン Aphyllorchis montana タネガシマムヨウラン
ヒメムヨウラン Neottia acuminata サカネラン
ホクリクムヨウラン Lecanorchis hokurikuensis ムヨウラン
ミドリムヨウラン Lecanorchis virella ムヨウラン
ムヨウラン Lecanorchis japonica ムヨウラン
ムラサキムヨウラン Lecanorchis purpurea ムヨウラン
ヤクムヨウラン Lecanorchis nigricans ムヨウラン

 

 上の表ではアリサンムヨウランのみ菌従属栄養植物ではなく、緑色の葉を持つ多年草です。「蟻さん無葉蘭」ではなく「阿里山無葉蘭」で、阿里山は台湾の地名です。

 

2013.01.20 掲載