キンランの奥の間

.           これぞ、「金蘭」!

キンランの特別ページです。

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#1 アルビノキンラン(キンランのアルビノ突然変異体)
#1 アルビノキンラン(キンランのアルビノ突然変異体)

 

早朝の陽光を斜め後方から浴び、黄金色に輝いて見えました。

『おお、これぞ、金蘭!』思わず声に出してしまいました。

 

#2 アルビノキンラン  発見から6日後 開花直前です
#2 アルビノキンラン  発見から6日後 開花直前です

 

 キンランの名は、ご承知のとおり、黄色い花に由来します。 仲間で白い花をつけるものは、銀色になぞらえてギンラン。 本種は、黄色を金色になぞらえてキンラン。 しかし通常は黄色なのは花だけで、葉や茎は緑色です。 ところが、この個体は花も葉も茎も含め、全草が淡黄色なので、「これぞ、金蘭!」と思った訳です。

 

 この植物は、キンランのアルビノ突然変異体です。 当サイトでは、「アルビノキンラン」、もしくは「アルビノのキンラン」と呼んでいます。 アルビノはほぼ白色になることもありますが、この個体はクリーム色と表現してもよいような、淡黄色でした。

 

 ところで、なぜこのような変わり者のキンランが出現するのでしょうか?

 地球上の植物の、なんと約80%の種は、地下の根や茎で、菌類と共生しているそうです。 植物は光合成でつくった炭素の一部を共生菌に与え、菌は植物の生存に欠かすことのできない窒素とリンを植物に与える。 いわゆる"Give and Take" の相利共生が成り立っているのです。 お互いに不足しているものを与え合って、仲良く生きていこうという、素晴らしい関係ですね。 これを「菌根共生」と呼びます。

 

 ところが、中には葉緑素を捨てて光合成をやめてしまい、一方的に菌類から養分を奪い取って生きていくように進化した植物があります。 菌には何も与えず、養分を奪い取るだけですからこれは「略奪」です。 植物から見て"Take and Take" の関係ですから、菌にとっては、迷惑千万な話でしょう。 このような進化を遂げた植物は「菌従属栄養植物」と呼ばれ、ラン科の中でみると、アオキランアキザキヤツシロランオニノヤガラサカネランショウキランタシロランなどなど、たくさんあります。

 

 そして中には、進化の途中段階にあり、葉緑素を持ち光合成をしつつ、菌からも養分を略奪している種があります。 これを「部分的菌従属栄養植物」と呼びますが、キンランもこの仲間です。 キンランは緑色の大きな葉を持ち、光合成により栄養分をつくりますが、それだけでは生きていくには足りないので、イボタケ科やベニタケ科などの菌類の菌糸から、生育に必要な炭素源の34~43%、窒素源の約49%を得ているのです。 これは大きな割合です。 これらの菌類は、クヌギやコナラなどの樹木と、上記の菌根共生の関係を結んでいます。 つまりキンランは、菌類を介して樹木から養分を得ているとも言えます。 キンラン・菌類・樹木、この3者の関係が成り立たない場所では、生きることができないのです。 このため野山のキンランを掘り出して持ち帰り家の植木鉢に植えてみても、菌類からの養分が絶たれるので育つことはできず、やがて枯れます。

 

 このような部分的菌従属栄養植物から,ある日、葉緑素を失い、完全に菌従属栄養性に特化した突然変異体が出現することがあります。 アルビノキンランもその一つです。 私見ですが、キンランは菌従属栄養植物になるという最終目標を目指し、進化の次のステップに進むために、日々試行錯誤を繰り返しているのだと思います。 進化するということは、容易なことはありません。 きっと少しづつ条件を変えて、いろいろ試しているのだと思います。 アルビノキンランは、進化へのチャレンジャー(挑戦者)に違いないと思います。

 

#3 発見時の状態(#1,#2の6日前)
#3 発見時の状態(#1,#2の6日前)

 

 #3は、#1・#2の6日前となる、発見時の状態です。 まだ茎が見えていません。 今回の個体は、葉の形状など色以外は通常のキンランと変わらないように見え、力強さを感じました。 花を咲かせるかも知れないと、期待が持てました。

 

#4 #3のアップ 発見時の状態
#4 #3のアップ 発見時の状態

 

 少し近づいたものが#4です。 よく見ると葉の先端や葉脈の一部に、葉緑が残っています。 このため外見は完全なアルビノとは言い難いのかも知れません。 しかしこのわずかな葉緑で、植物体の成長に貢献できるような光合成産物を作れるとは考えにくいので、この個体は100%、菌類から略奪した炭素源を含む養分で生きているのでしょう。 その意味では、完全なアルビノであると言って間違いないと思います。

 

 ここで、以前見ることができたアルビノキンランを振り返ってみました。

 

#5 アルビノのキンラン 2014.05.01 東京都八王子市
#5 2014.05.01 東京都八王子市
#6 アルビノキンラン 2015.05.03 神奈川県
#6 2015.05.03 神奈川県

 

 #5は、2014年に東京都八王子市で初めて見ることができた、アルビノキンランです。 森の中で偶然見つけました。 始めは種も、生きているのかもわかりませんでしたが、じっくり観察すると、葉の形状や葉脈の様子などから、アルビノキンランであるとわかりました。 葉に触れてみるとしっとりとした感触で、枯れているのではなく、生きている植物なのだとわかりました。 ただ葉がいびつであり、このまま順調に成長できるかわからないと感じました。 この後の状態は観察できていません。

 

 #6は、2015年に神奈川県の緑地で見つけたものです。 色が薄く、白色に近いものでした。 全体に弱々しく、葉も小さく、葉は触れてみると薄く、頼りない感じでした。 このまま順調に成長できるとは、思えませんでした。 この緑地も自宅から離れており、以後の状態を確認できません。

 

 アルビノは花を付ける前、あるいは結実前に枯れてしまうことが多いようです。原因はいろいろあるようですが、光合成を行わないにも関わらず、大きな葉や気孔を保持しているため,水分の蒸散がうまくいかず乾燥しやすく、通常個体より早く枯れてしまうことも一因と考えられているようです。

 

 他にも、アルビノ個体は通常個体よりも菌への依存度が高いために、窒素含有率が高く、植物体を食べる植食性昆虫にとって都合が良い餌になること、葉緑素を持たないことにより反射率が高い白っぽい葉になり、植食性昆虫に見つけられやすくなることで、食害率が上昇することも確認されているそうです。

 

 さて、今回見つけることができた個体はどうなるでしょう? 気になって仕方ありません。 連休中はHiroが飛び石で仕事であったので、一人で何度か見に行きました。 自宅からさほど時間がかからない場所なので助かりました。

 

#7 発見から4日後のアルビノキンラン  つぼみをつけていた!
#7 発見から4日後  つぼみをつけていた!

 

 アルビノキンランは、つぼみをつけていました! 二重の意味でホッとしました。 一つは、無事育ってくれていたこと。 もう一つは、盗掘されなかったこと。 目立つので、盗掘されてしまうことを心配していました。

 

#8 アルビノキンラン 発見から4日後 つぼみを7個...かな? つけたようです。
#8 発見から4日後 つぼみを7個...かな? つけたようです。

 

つぼみは、7個つけたようです。

ここまで来ると、ぜひとも開花した花を見たくなる!

 

#9 アルビノキンラン、開花!
#9 アルビノキンラン、開花!

 

発見から8日後、

とうとうアルビノキンランが開花しました!

よく頑張りました。

 

#10 アルビノキンラン 花は、9個つけていました。
#10 花は、9個つけていました。

 

 つぼみの状態ではよく見えなかったようですが、花数は、結局9個でした。 これはキンランとしては、標準的な数だと思います。 全体的な姿や大きさは、色以外は通常のキンランと変わらないように見えました。 近づけない状況だったので、花の詳細が確認できなかったことが残念ですが、通常個体と同じように、唇弁の黄橙色の隆起線も見えました。

 

#11 アルビノキンランに訪れた昆虫
#11 アルビノキンランに訪れた昆虫

 

 キンランは、花粉を運んでくれる送粉者がいなければ、果実を実らせることができない植物で、ヒメハナバチ や コハナバチといった、小さなハチに花粉の媒介を託しているそうです(*2)。 研究の結果、アルビノキンランにも通常のキンランと同程度、これらの送粉者をおびき寄せていることがわかっているそうです #11のように、このアルビノキンランにも、ハチらしき昆虫が訪花していました(★)

 

#12 アルビノキンランに訪れた昆虫  ハチの仲間? →たぶんホソヒラタアブでしょうとご教授あり
#12 アルビノキンランに訪れた昆虫  ハチの仲間? →たぶんホソヒラタアブでしょうとご教授あり

 

 限界を超えて画質が劣化することを承知で、トリミングしてみました。 はっきりとはわかりませんが、腹部に黄色と黒の縞模様が見え、やはりハチの仲間ではないかと思いました。

 

 

 キンランが最終目的の進化を果たすためには、まだ気が遠くなるような長い時間が必要なのでしょう。 日々、人知れず進化の道を邁進する植物たち。 その過程で発生した突然変異体は、人間の目にもはっきりとわかる姿をしていました。 キンランの進化の歴史を刻むであろう「チャレンジャー」の一人に出逢えたことは、とても幸運でした。

 

★ #11,#12の「ハチらしき昆虫」は、たぶんホソヒラタアブでしょうと、植物学者の末次健司さんから教えていただきました。ありがとうございました。(2017.05.13)

 

< 引用・参考文献 >

 

*1 遊川 知久 菌従属栄養植物の系統と進化

   http://bsj.or.jp/jpn/general/bsj-review/BSJ-Review5C-2.pdf

   日本植物学会 植物科学の最前線(BSJ-Review)

    第5巻 2014年発行 BSJ-Review vol.5 C2 (2014)

 

*2 末次 健司、加藤 真

   菌従属栄養性の生活様式を可能にした様々な適応進化 ―特に送粉様式の変化について

   http://bsj.or.jp/jpn/general/bsj-review/BSJ-Review5C-3.pdf

   日本植物学会 植物科学の最前線(BSJ-Review)

    第5巻 2014年発行 BSJ-Review vol.5 C3 (2014)

 

*3 谷亀 高広 菌従属栄養植物の菌根共生系の多様性

   http://bsj.or.jp/jpn/general/bsj-review/BSJ-Review5C-4.pdf

   日本植物学会 植物科学の最前線(BSJ-Review)

    第5巻 2014年発行 BSJ-Review vol.5 C4 (2014)

 

※ 外部サイトは、運営者の都合で変更・削除されることがあります。

 

2017.05.09 掲載

 

 

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コメント: 2
  • #1

    ゆき (水曜日, 10 5月 2017 16:57)

    こんにちは、hiroさんKenさん、アルビノキンラン、神々しい姿に、感動しました、ラン科植物の菌類との共生関係の進化の定義は、奥深いですね。通常の植物より、光合成や葉緑素のバランスで、ハンデが、あることは、いうまでも、ないのですが、ほんの少しの葉緑素に、より、黄金比が、生育の鍵に、なるのでしょうか。何度も、様子を見に行かれた、お気持ち、充分、お察しします。願わくば、誰にも、見つからず、末長く、この地で、生きてほしいです。白色動植物は、古来より、神聖なものとして、讃えられていたのも、うなずけます。

  • #2

    Ken (水曜日, 10 5月 2017 20:14)

    ゆきさん、こんばんは。いつも暖かいコメントをありがとうございます。
    今回は高等植物であるランの挑戦をこの目で見た気がしましたし、ずっと見たいと思っていた植物であったので、本当に運がよかったと思います。 遠い未来に、キンランは葉も捨てるのであろうと思います。 もちろん、その姿を見ることは叶いませんが。 部分的菌従属栄養植物のランは、他にもシュンランやギンランなど、たくさんあります。 そういったことを思いながら観察するのも、また面白いかもしれませんね!