コアツモリソウ

 

小敦盛草 ラン科 アツモリソウ亜科 アツモリソウ属

Cypripedium debile Rchb.f.

準絶滅危惧(NT)

コアツモリソウ (小敦盛草) ラン科 アツモリソウ属  2010.05.08 福島県
コアツモリソウ (小敦盛草) ラン科 アツモリソウ属  2010.05.08 福島県

 

 2010年4月24日に福島県の花友さんに、浜通りの山にある自生地

に案内していただきましたが、まだ蕾の状態でした。 どうしても咲

いている状態が見たくて、同年の5月8日に再度訪れ、開花した花を

見ることができました。

 

 図鑑には茎は高さ10〜20cmとありましたが、私たちが見たものは

10cmあるかどうかでした。 とても小さなランです。

 

コアツモリソウ
コアツモリソウを上から見たところ。 右は別の植物です。

 

 上から見るとこんな感じです。 フタバラン属に似た葉を2個

対生させます。 葉は長さ2.5〜5.0cm、幅2.0〜5.0cmで光沢が

あり、縁はやや波うち、細かな毛状突起があります。

 

 花(→部)は葉の下側に垂れ下がるように咲くので、上から見

ると本当に目立ちません。 よく注意していないと、きっと見過

ごしてしまうでしょう。

 

コアツモリソウの花は、小さい!
コアツモリソウの花は、小さい!

 

 花は驚きの小ささでした。 思わず「ちっちゃいね〜!」と

言ってしまいました。 垂れ下がって咲いている花をちょっと

持ち上げさせてもらいましたが、この小ささです。 写真では

花を下から見る形になっているので幅と奥行しかわかりません

が、それぞれ8mm位でしょうか。 長さも10〜12mmという

感じでした。

 

コアツモリソウ
コアツモリソウ

 

 さてさて、お花の撮影だ〜♪ ...あれ? この花なんか変じゃない? まるで顔をすっぽりマスクで覆っているような。 ふ〜ん、コアツモリソウってこんな花なんだ。 しかしおかしくない〜?、これじゃ虫が来ても花粉を運んでもらえないじゃないの??

 

 ...と、花を見たときは本当にそう思ったのですよ。 初めて見たとはいえ、お恥ずかしい話です。

 

コアツモリソウ

 

 地面に腹ばいになって、しばし花を見つめます。 そして

気づきました。 花が垂れ下がってつくのはよいとして、花

が茎の方を向くのはおかしくないか? どう考えても外に向

いてないとおかしい。 しかし外側は萼がぺったりくっつい

ています。 あっ、紫色っぽい筋が見える。なんじゃろか?

 

コアツモリソウ

 

「ごめんね、ちょっとだけ見せてちょ」 花に謝り、

落ちていた松葉で萼を持ち上げてみたら、あったー!

こっちが正面じゃん! 一生懸命、花のおケツを

てた。 前後逆だった!

 

コアツモリソウ

 

 唇弁の縁は大きく内側に巻き込み、まるで火口のようです。

暗紫色の筋は開口部まで続いています。 昆虫を唇弁の中に

導くための模様なのでしょう。

 

コアツモリソウ

 

唇弁の基部には仮雄しべと黄緑色の2個の雄しべ、

そして雄しべが抱える淡黄色の葯が見えます。

 

コアツモリソウの花の構造(背萼片、側花弁、唇弁、仮雄しべ、葯)
コアツモリソウの花の構造

 

 コアツモリソウの花は、ちゃんとした(?)花でした。 花の上部にあり、花の正面を隠すように垂れていたのが背萼片です。 側萼片は花の後ろに隠れています。 花の両脇に垂れているのが、側花弁。 そして一番目立つのが、中央の大きな袋状の唇弁。 暗紫色の縦筋が何本も走っています。 唇弁の基部中央には蕊柱の先端部となる仮雄しべが見えます。 見えませんが仮雄しべの下側が柱頭になります。 そして仮雄しべの両側の淡黄色の部分が葯です。

 

 仮雄しべの下の小さな逆三角形の穴は、唇弁に落ち込んだ昆虫の脱出口ではないでしょうか。 柱頭が出口のすぐ外にあるので、その可能性は高いと思います。

 

 大きさと色に違いはありますが、花の構造はアツモリソウに非常によく似ています。 正にミニチュア版のアツモリソウ。 小さなアツモリソウを意味するコアツモリソウの名は、納得できるものです。

 ただ... 小さいから「小」をつけるなんて、ストレート過ぎるかな? この花の愛らしさから考えると、「ヒメアツモリソウ」がよかったのではないかと思ったりしました。

 いやいや、アツモリソウの名の由来は平家の若き武将、平敦盛ですから「姫」とつける訳にはいきませんね。 やはり小敦盛草が適切ですか。

 

コアツモリソウの花を左側面から花を見る(苞、花柄子房、背萼片、唇弁、側花弁、合萼片)
左側面から花を見る

 

 左側面から見たコアツモリソウの花です。 アツモリソウ属の

花は、面白いことに2個の側萼片が合着し、花の背面にあります。

元が2個であったことの名残りなのか、先端部がわずかに2裂しま

す。 2011年6月にアツモリソウに出会えたときはうっかりこの

合萼片を撮り忘れてしまったので、そっくりな構造を持つコアツ

モリソウでは撮れていてよかったです。

 

 山渓ハンディ図鑑「山に咲く花」では花の断面図の写真に2個に

別れた側萼片が写っていて、それが当然のような説明がありまし

た。 もしかすると合萼片は2個の側萼片が軽く合着しているだけ

で、2個に分離することもあるのかも知れません。

 

 コアツモリソウの花柄子房にねじれはないので、「ストレート・

弁下側タイプ」です。

 

コアツモリソウ (小敦盛草) ラン科 アツモリソウ属  2010.05.08 福島県

 

 上の写真は2010年5月から本日まで旧ページで掲載していた

ものです。 実は撮影時に小枝で背萼片を持ち上げて、唇弁が

見えるようにしていました。 小枝は画像処理で消しましたが、

そういうことをするとなんとなく不自然な感じですね。 なん

となく後ろめたい感覚がありました。 今回のページ改定を機

に、オリジナル画像を掲載することにしました(下の画像)。

 

コアツモリソウ
コアツモリソウの花目  2010.04.24 福島県
コアツモリソウの花目  2010.04.24 福島県

 

 約2週間前は、このような花目でした。 花目は始めは

葉の上に乗っていて、成長とともに葉の下に隠れるように

垂れ下がります。 稀に、葉の上に乗ったまま開花するこ

ともあるようです。

 

 

2012.11.19 掲載

 

コメント: 6 (ディスカッションは終了しました。)
  • #1

    中途半端 (火曜日, 20 11月 2012 07:13)

    アツモリソウもコアツモリソウも見ていません。
    来年は是非見たい、出会いたい山野草です。
    今年は関東に4ヶ月出張で土日は富士山周辺の山、八方尾根、霧が峰辺りまで遠出しました。八方尾根と富士スバルラインでは色々な山野草、初めて見る山野草に出会え楽しかったです。

  • #2

    hanasanpo (火曜日, 20 11月 2012 21:20)

    コアツモリソウは、富士山近辺にもいるようですよ。
    詳しい場所はわかりませんが!

  • #3

    あひる (水曜日, 21 11月 2012 08:31)

    かわいらしいお花ですね。
    アツモリソウと、雰囲気違いますね。
    背萼弁で顔を隠してるなんて恥ずかしがり屋さん。
    そうか、姫だと女装男子でまずいのですね^m^

    うまく画像処理されてたんですね。
    目を凝らして比べても全然わからないです^_^;

  • #4

    hanasanpo (水曜日, 21 11月 2012 21:48)


    あひるさん、本当にちっちゃくて愛らしい花ですよ〜
    もしアツモリソウくらい大きかったら、あの縞々模様が少し恐いかも。

    背萼片で顔を隠していると気づくのに少し時間がかかりました。
    花がもっと成熟すると、背萼片も持ち上がって顔が見えるようになるのかも知れません。
    ちょうど、開店前のお店で、中に店員さんが見えるのに「準備中」の札がかかっている状態のような。(変なたとえ)

    画像処理は、花の生態と無関係なゴミ取りや、嫌いなクモを消しちゃうときにも使うことがあります。

  • #5

    ゆき (日曜日, 30 7月 2017 21:08)

    こんばんは、hiroさん、Kenさん、コアツモリソウ、見てみたいお花でした、写真ありがとうございます、とっても、小さなお花なんですね、千葉にも、自生地が、あるみたいなのですが、お目にかかる、事もなく、写真、嬉しいです。特徴のある、葉も、全体的に、かわいいですね。

  • #6

    Ken (月曜日, 31 7月 2017 04:29)

    ゆきさん、こんばんは。コアツモリソウは、その名の通り、アツモリソウにそっくりな形の花ですが、とーっても小さいです。背萼片が唇弁の前に垂れて隠してしまっているので、唇弁を見るときは「ちょっとゴメンネ」と言いながら背萼片を持ち上げて、拝ませてもらっています。コアツモリソウは千葉にもいるのですね!

 アツモリソウ
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クマガイソウ
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