トンボソウ

 

蜻蛉草 ラン科 トンボソウ属

Platanthera ussuriensis (Regel et Maack) Maxim.

  奥の間   

トンボソウ 2013.08.03 斑尾高原 alt=840m
トンボソウ  2013.08.03 斑尾高原 alt=840m

 

 北信州の湿原でトンボソウに出会いました。  2009年7月に

群馬県の湿原で出会って以来です。 北海道から九州まで分布

し、さほど珍しい植物ではないと思うのですが、時期が合わな

かったのか、目が悪いのか、4年ぶりの再会です。 どちらの場

所も湿原で、地面はかなり湿っていて、日当たりは良い場所で

した。 そんな場所が好きなのでしょう。

 

 名前や姿が似ているオオバノトンボソウ(ツレサギソウ属、

高さ約30cm)より大分小さいく、茎の高さは10〜20cmほど

でした。 花も小さく、径3〜4mmほどで、10〜20個ほど咲

かせます。

 

トンボソウ 2013.08.03 斑尾高原
トンボソウ  2013.08.03 斑尾高原

 

 花が小さい上に淡緑色なので、どちらかと言えば

目立たない部類に入ります。 でもよ〜く見ると、

なかなか味わいのある花ですよ。 花はいろいろな

方向に向いて咲いていました。 花期は7〜8月。

 

 

 似た花との識別ポイントも意識し、1枚の写真で一気に花の構造の説明を試みます。 上の写真にマウスでポインターを重ねると、各部の名称が表示されます(スマホはタップして下さい)。 

 

 背萼片は広楕円形で長さ約2mm、側花弁は狭卵形、背萼片と同じ長さで、背萼片とともにかぶと状になり、蕊柱を囲みます。 側萼片は狭長楕円形で斜め後方に反り返り、その縁も反り返り気味になります(後で別の写真でも示します)。

 

唇弁は長さ3.0〜3.5mmで、基部から3裂し、T字形です。 T字の左右の小さい裂片を側裂片、中央の大きな裂片を中裂片と呼びます。 側裂片は三角形で鈍頭、中裂片は舌状で幅広く、やや斜め前方に下垂し、反り返りません(註1)。 唇弁が基部から3裂するのがトンボソウ属の特徴で、よく似たツレサギソウ属の唇弁は全縁です(分裂しない)。(註2)

 

 図鑑には「唇弁は白色」や「唇弁は黄緑色がかった白色」とありますが、ここで見た個体は唇弁が白っぽくは見えず、他の花被片と似たような色でした。 むしろ側花弁がやや白っぽく見える個体がいました。 ネットの中の写真を検索すると、確かに唇弁が白っぽい花が少なからずいます。 きっと地域差なのでしょう(ということで片付けちゃう!(^^;))。

 

 は狭披針形で鋭頭、基部で花柄子房を下から支えるようになっています。 長さは花柄子房の半分〜同長で、花柄子房より長くはありません。

 

 は、これも図鑑に白色とありましたが、あまり白っぽくは見えず淡緑色でした。 花柄子房に沿うように緩やかに下方に曲がり、目立ちません。 長さは花柄子房とほぼ同長で、先端が茎の反対側に飛び出すことはありませんでした。

 

 花柄子房には、明確に「ねじれ」が見えます。 トンボソウは花柄子房を180°ねじって唇弁を下側につける、「標準タイプ」のランです。

 

トンボソウ(葯、距への入口)

 

 葯は紫褐色でした。 右側は側花弁に隠れて見えま

せん。 中央には丸い、距への入口の穴が見えます。

 

トンボソウ

 

上から見ると、確かにちょっとトンボっぽいかな?

 

 

 側萼片がちょっと変わっていました。 側萼片は

斜め後方に反り返るのですが、縁が強く反り返り、

「細長いお椀形」になっていました。

 

 

 葉は茎の基部に2個あります。 狭長楕円形〜狭披針形で、

長さ8〜13cm、幅1〜3cmで、やや弓なりになります。茎の

上部には退化した鱗片葉があります。

 

 

註1:唇弁がもっと長く、反り返る個体を見ました。 トンボソウの奥の間に写真を掲載しました(2018.08.17)。

 

註2:トンボソウ属は広義のツレサギソウ属(Platanthera)に含まれるとする考えもあるようですが、調べても「広義のツレサギソウ属」の定義がわからなかったのと、愛用の図鑑に従いトンボソウ属としました。

 

2013.09.11 掲載

 

もっとトンボソウを見る >>

 

コメント: 4 (ディスカッションは終了しました。)
  • #1

    村田孝嗣 (月曜日, 17 8月 2015 04:25)

    野生ランに出会っても、図鑑での検索に手こずっていたのですが、こんなに充実した頼りがいのあるホームページがあると知りませんでした。特に、平易な言葉と観察者としての視点で語られていること、形態をしっかり解説して下さっていることは、図鑑よりずっと信頼感があります。ちょくちょく利用させてもらいます。

  • #2

    HiroKenのKen (月曜日, 17 8月 2015 20:51)

    村田さん、嬉しいコメントをありがとうございます。大変励みになります。

    図鑑は写真も文も、その道を極めた方々が心血を注いで制作されているので、私たちの様なシロウトはとうてい足元にも及びません。ただ図鑑には「紙面の制約」という重い足かせがあるのも事実です。逆にこのようなホームページでは記事の割り当ての制約は無きに等しいです。図鑑をリスペクトしつつも、図鑑にはできない内容を充実させ、図鑑を補完できるような存在になれれば、植物に興味を持たれている方々のお役に立てると考えています。
    今後もいつでも気軽に遊びに来てください。

  • #3

    土佐市のぽち (月曜日, 11 7月 2016 23:55)

    先日四国カルストに行った時に、カキランの中にひっそりと咲いているトンボソウをみつけました。
    とても小さくて、よく人に踏まれずに咲いたな~と、感動でした。
    最近このHPをよく参考にさせていただいてます。細部にわたり詳しく掲載されているので、とてもわかりやすいです。

  • #4

    HiroKenのKen (火曜日, 12 7月 2016 01:43)

    コメントをありがとうございます。
    トンボソウ、四国カルストでも頑張って咲いているのですね!
    「野山の花アルバム」の各ページでは、説明が写真のどの部分を述べているのかを、できるだけわかりやすくしようと努めています。
    いつでもお気軽に遊びに来てください。