アツモリソウ

 

敦盛草 ラン科 アツモリソウ亜科 アツモリソウ属

Cypripedium macranthos Sw. var. speciosum (Rolfe) Koidz.

絶滅危惧ll類(Vulnerable)

#1 アツモリソウ (敦盛草) ラン科 アツモリソウ属  2011.06.26 山梨県
#1 アツモリソウ (敦盛草) 2011.06.26 山梨県

 

 初めて来た山。デブっちょが苦手な高温、高湿度、上り坂の連続アタックにやられ、ヘロヘロしながら尾根道を歩いていると、左手3メートルのところに、薄ピンクの花がひとつ咲いているのが目に入りました。他の草に隠れるように、横を向いてうつむき加減に咲いています。

 

 歩いている姿勢のまま、一時停止。顔だけ花に向けて、記憶の中の過去に見た花と照合を開始。5秒後に出た結果は「Negative! 該当ナシ」。興味を引かれ、花に向かって3歩進み、正面に回って、しゃがんでじっくり顔を見る。

 

#2 アツモリソウ
#2 アツモリソウ

 

 こ、こ、これは!! ア、アツモリソウじゃあ〜りませんか!! 目の前にいるのは、紛れもなくアツモリソウ。 死ぬまでに一度は見たいと思っていた、アツモリソウ!! 先を歩いている相棒を呼び戻すべく、急いで立ち上がったら、よろけてコケそうになる。 道に戻り、50メートルほど先を歩く相棒の名を大声で呼ぶ。聞こえた。次に「アツモリソウだあ!」と叫ぼうとして、左手でバシっと自分の口を押さえました。ここにアツモリソウがいるなんて、大声で叫んではいけない気がしました。他の登山者なんて、誰もいなかったのにね。

 

#3 アツモリソウの花
#3 アツモリソウの花

 

 目の前の花は、何度見てもアツモリソウです。両手で、両方のほっぺたをバシバシと引っぱたいてみました。痛いです。やはり夢ではないです。

 

 なんとも変わった形の花です。うっすら桃色が、とても美しいです。立派というか...貫禄もあります。 いつまでも眺めていたい気がしました。

 

 二人で興奮しながら交互に撮影開始。周りが気になり、しょっちゅうキョロキョロ見回してしまう。 誰かに見られたら... それが盗掘目的の人間だったら、どうしよう? そんなことばかり気にかかり、落ち着いて撮影できません。 2時間歩いて一人しか登山者に会わないような場所なのにね。 たった一輪のこの花は、いろいろなインパクトを私たちに与えました。

 

 撮影後は花にお礼を言って、枯れ草で隠しました。心無い盗掘者に見つかったら、間違いなく掘り起こされて持っていかれるだろうと思ったからです。 花には触れぬよう、でも道からは完璧に見えないように隠しました。

 もしこの世に盗掘する人がいないのなら、逆に他の登山者が見つけやすいようにしたいところですが、悲しいことに、現実はそうではありません。

 

 冷温帯の草原や明るい林の林床に生育する、高さ30~50cmの多年草。 葉は3〜4個つき、長楕円形で長さ約10cm、幅約4cm。花茎の先端に通常1個の花をつける。 花は長楕円形で長さ約10cm、幅約4cm。花の基部には大きな包葉がある。 花は淡紅色。背萼片は長さ約5cm,唇弁は長さ約4cm、幅2.5cm程度。唇弁の上部に大きな蕊柱がある。 本州の東北地方から中部地方に分布。花期は6月。花が美しいため乱獲され、多くの自生地で絶滅した。


 アツモリソウ属は、アツモリソウ亜科に分類されます。 本サイトの他の属のランは、すべてラン亜科です。

 

名の由来

 一ノ谷の戦いで源氏の奇襲で討たれた平家の若き武将、平敦盛(たいらのあつもり)が、流れ矢を背後から受けた場合の防具として、大きく膨らませた母衣(ほろ)を鎧の上に背負っていたそうです。 その袋状の母衣に花の唇弁が似ていることからついた名です。

 ちなみに平敦盛の首を切った源氏の熊谷直実(くまがいなおざね)もどうような母衣を背負っており、こちらはクマガイソウの名の由来となっています。

 

2011.06.29 掲載

2012.11.18 名の由来を追記

 

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以下の写真と文は2012年11月3日に追加しました。

撮影日は、前半と同じく2011年6月26日です。

 

アツモリソウの花の構造(背萼片、側花弁、合萼片、唇弁、苞葉、子房)
アツモリソウの花の構造

 

 花の付け根にある包葉は上に立ち上がり、卵形で長さ4〜5cm。 花の上部には唇弁を守る庇のように背萼片があります。 側萼片が見えませんね? 実は2個の側萼片は合着して1個になり、花の後ろ側にあります。 花を後方から撮影しなかったので(後悔!)、明確に見える写真がありませんでした。 上の写真では左側の側花弁の根元付近にわずかに覗き、下には下垂した側萼片の先端部がちょこっと見えます。 先端部はわずかに2裂するそうなのですが、この写真からはよくわかりません。 側花弁は卵状披針形で、背萼片と側萼片、そして側花弁はともに先端が尖ります。

 

 大きな袋状の唇弁は、この花の大きな特徴です。 これは他のランの仲間には見られない形状です。 他のランと大きく異なるため、アツモリソウ亜科が設けられています。 アツモリソウ亜科には4つの属がありますが、日本の自然に咲くのはアツモリソウ属だけで、他にキバナノアツモリソウ、コアツモリソウクマガイソウなど6種があります。

 

アツモリソウの花の構造(蕊柱、雄しべ、仮雄しべ、葯)
アツモリソウの花の構造

 

 普段は花には手を触れないのですが、このときばかりは禁を犯して背萼片をそ〜っと持ち上げて、中を拝見しました。

 

 太い蕊柱が目立ちます。 写真では見えませんが、仮雄しべの先端の下側に柱頭があります。 雄しべは2個で、蕊柱中部の左右にあります。 葯の下側(見えない)に花粉がありますが、他のラン科のように花粉塊を作らず、花粉は粘液中に混じっているそうです。

 

 唇弁の入り口はまるで火山の火口のようです。 唇弁の縁は内側につぼまっているので、ここに虫が落ち込んでしまったら、同じ場所から出てくるのはかなり難しそうです。

 

 写真では見えませんが、唇弁の中には毛が生えていて、根元に近いほど長毛になっているそうです。 虫は毛につかまりながら出口を探して奥に進みます。 やがて唇弁の基部に小さな出口が見えるのですが、中央は仮雄しべが塞いでいるので、仕方なく葯と唇弁基部の間にある狭い通路からやっとこさ出てくるのでしょう(下の写真も参照)。 そのとき、粘液に混ざった花粉が虫の体につくのでしょう。 その虫が他の花を訪れ同じことをしたら、今度は出口を通るときに花粉を柱頭にこすりつける形になるのでしょう。 自家受粉を防ぎ、虫にできるだけ広範囲に花粉を運んでもらうためのシステムなのだと思います。

 

 ポリネーターの脱出口?
 ポリネーターの脱出口?

 

 葯の横の唇弁が外側に少し膨らみ、葯との間にスペースを作っています。 ポリネーター(送粉者)の虫には、必ずここを通って、お土産(花粉)をお持ち帰り願うということなのでしょうね。

 


 

 左は花を上から見た写真です。 すぐ手前に花をつけていない若い株があります。 「来年は咲くかな? また見に来よう!」と思って楽しみにしていましたが、今年(2012年)に訪れたら、両方とも跡形もなくなくなり、地面に2つの穴が残されていました。 痕跡が新しくないので、昨年中に盗掘されたものと思います。 盗掘者には、天罰が下ることでしょう。

 

 右は子房の部分を拡大したものです。 ねじれていません。 アツモリソウは、花柄子房がねじれずに唇弁を下側につける「ストレート・唇弁下側タイプ」です。

 

 いつかまたどこかで出会いたい、アツモリソウです。

 

 

コメント: 13 (ディスカッションは終了しました。)
  • #1

    かのん (金曜日, 01 7月 2011 23:42)

    >そんなことばかり気にかかり、落ち着いて撮影できません。

    ハハハ、お二人でまわりを気にしながら撮影したり守ったり。
    いきなりの思いがけない出会いに、お二人の興奮やら動揺やらが目に浮かぶようです。

    でも本当に、何ともいえない特別な存在感のある造形美ですね~
    今はやりの、ぶさかわキャラって言ったら、あっちゃんに悪いかな^^

    とにかく、奇跡の花に出会えた感動のお裾分けに感謝です^^




    たった一輪のこの花は、いろいろなインパクトを私たちに与えました。



     撮影後は花にお礼を言って、枯れ草で隠しました。心無い盗掘者に見つかったら、間違いなく掘り起こされて持っていかれるだろうと思ったからです。 花には触れぬよう、でも道からは完璧に見えないように隠しました。

  • #2

    かのん (金曜日, 01 7月 2011 23:46)

    あれ?コピペが残ってしまいました。

    ちょっと恥ずかしいです^^

  • #3

    hanasanpo (土曜日, 02 7月 2011 09:45)

    そうなんですよ、かのんさん。
    アツモリソウ目的で行ったのであったら、あそこまで慌てなかったと思います。
    内心、一生見ることができないかも知れないなあ と思っていた花が、いきなり
    目の前に現れたので。だ〜れもいない静かな山の中で、二人で慌てふためいて
    いました。誰かが見ていたら、さぞかし滑稽であったことでしょう。

    最近は新しい花をHiroに先に見つけられてしまうことが多かったのですが、
    今回は私、Kenが先に見つけました! しかもこの後のムラサキも私が先に
    見つけたのです! フッフッフ、これはかなりの快感です! 

  • #4

    おくちゃん (土曜日, 03 11月 2012 05:38)

    驚きと、喜びと、快感、その気持ちが
    ビンビンと伝わってきます。

    σ(^-^)も慌てて行ったもんな~ぁ!
    二番目でも凄い興奮したことを思い出しました。

    その節は ありがとうございました。

  • #5

    hanasanpo (土曜日, 03 11月 2012 08:42)

    おくちゃん、お早うございま〜す!

    おくちゃんにはたくさんの花を教えていただきましたので、少しでも恩返しできてよかったです。
    1年半を経過し、ようやく冷静に振り返ることができるようになったので(大袈裟?)、花の構造などを調べてみました。
    またこの花に出会えることを、切に願っています。

  • #6

    T.K (日曜日, 06 3月 2016 20:58)

    素晴らしい!

  • #7

    HiroKen (月曜日, 07 3月 2016 02:25)

    ありがとうございます!

  • #8

    スゴイッスネ (日曜日, 15 5月 2016 00:32)

    アツモリソウに偶然出くわしたっていうのもスゴイね!
    私の場合は、アツモリソウではなく海外留学中、アパートをシェアした外国人ですね。

    当時、私は出稼ぎで愛知県にいました。
    ある日、新安城駅の切符売り場で切符を買っていた時、同じく隣で切符を買っている外国人が、偶然私に気付いてアンビリーバボーな再会になりました。

    いや〜予期せぬ出会いというのはアツモリソウでも人でもスゴイっすね!
    留学先がモンゴル国だったので当時は簡単に日本に来れるはずのないモンゴル人
    エンヘー君との再会はアツモリソウに山で出会う衝撃以上かもしれません。

    アツモリソウではありませんが、山でクマガイソウと出逢った時は言葉を失いました。


  • #9

    HiroKen (日曜日, 15 5月 2016 18:43)

    花とも、人とも、奇跡的な出会いというものは、あるのですね!
    嬉しい出会いであれば、何度でも体験したいものです。

  • #10

    ゆき (日曜日, 18 6月 2017 16:20)

    こんにちは、hiroさん、Kenさん、あつもり草の写真ありがとうございます‼淡いピンク色のお花と美しい姿、感激しました、お山で、偶然、Kenさんが、先に、見つけられて、hiroさんと撮影された、美しい姿と花の細やかな構造の説明、ありがとうございます‼盗掘されてしまいましたが、最初に、お二人の目に、とまったのは、奇跡的な出来事、あつもり草が、この場所に、いる姿を残してほしくて、お二人に、気づいてほしかったのでは、ないでしょうか。気持ちが、伝わったのかな。貴重な写真ありがとうございます。

  • #11

    Ken (日曜日, 18 6月 2017 22:59)

    ゆきさん、いつも心温まるコメントをありがとうございます。アツモリソウは、偶然に出逢えましたが、まったく予想もしていなかったので、突然のことで喜びと驚きで取り乱してしまいました。花の神様がご褒美をくれたのかも知れません。このような花が咲き乱れて、季節には誰でも楽しめて、盗掘などなくなる世界が来るといいな。

  • #12

    山さん (木曜日, 21 5月 2020 13:25)

    クマガイソウから当hpのアツモリソウに出会いました。
    花好きの、山好きの友人のブログにクマガイソウの写真が掲載されたので、それを少し調べ、対の花のアツモリソウを友人にお聞きしたら、彼も未だ自生のアツモリソウは見たことが無いというのでネット検索して当HPに出会いました。
    貴重種だと知りました。ありがとうございました。

  • #13

    Ken (木曜日, 21 5月 2020 18:55)

    山さん、当サイトを見つけてくださいまして、ありがとうございます。
    このページのアツモリソウには、本当に奇跡的な幸運に恵まれて、見つけることができました。 クマガイソウは、まだ各地に自生種が見られるようですが、アツモリソウは本当に希少になってしまったようです。 いつか、どこかで出会えるといいですね!

 

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