サルメンエビネ

 

猿面海老根 ラン科 エビネ属

Calanthe tricarinata

絶滅危惧Ⅱ類 ( Vulnerable )

 

サルメンエビネ   2015.06.07(このページの写真すべて)
 サルメンエビネ   2015.06.07(このページの写真すべて)

 

 ブナ帯の落葉樹林下に生える多年草です。 花茎の高さは

30〜50cm。 7〜15個の花をまばらにつけます。  長年見

たかった花に、ようやく出逢うことができました!

 

サルメンエビネ  2015.06.07

 

 上の写真では、4株が密にくっついて生えています(3株見える中央の後ろにもう1株あり)。 地面についている濃い緑色の葉は、越冬葉です。 新葉は緑色で、3〜4個束生します。 図鑑には「長さ15〜25cm、幅6〜8cm」とありましたが、それより大きく見えました。  葉は無毛で、先端は尖ります。 深い縦じわが印象的でした。

 

サルメンエビネの葉


新葉の基部は、茎を抱くというより、完全に巻いていました。

まるで太く長い茎を、根元で支えているかのようです。


サルメンエビネ  2015.06.07

 

 ややまばらに花をつけるとはいえ、草体が大きく、花も大きい。

数株が集まっていると、とても豪華な印象を受けます。 本当に

立派なランで、惚れぼれします。

 

サルメンエビネ


 この豪華で美しい姿が祟って(?)、盗掘者のターゲットとなって

いるようです。数を大幅に減らしているのは、開発や環境の遷移など

より、ダントツに盗掘のせいだと思われます。 本当に止めて欲しい

と思います。 今回はいつも以上に注意し、県名も非公開としました。

 

サルメンエビネ 茎頂部


 茎頂には、まだツボミが残っていました。

花期はあまり短くはないのかも知れません。


サルメンエビネ 茎の中ほど


花はややうつむき加減で、いろいろな方向に向いて咲きます。


 サルメンエビネ 茎の下部


茎の下部の花は終わり、このように萼片を閉じて垂れ下がったりました。

子房がかなり膨らんでいます。 無事結実してくれることを祈ります。


それでは、花をじっくり見てみましょう。


サルメンエビネ

 

 わずかに紫色を帯びた、褐色の大きな唇弁に目を惹かれます。

私はお猿の顔は連想しませんでした。  それよりも、激しく踊る

フラメンコ・ダンサーの衣装を連想しました。

 

サルメンエビネの花の構造
 サルメンエビネの花の構造

 

 萼片・側花弁は明るい黄緑色で、先端は尖ります。 萼片は長さ20〜25mm。 側花弁は萼片より少し小さい。

 

 唇弁は3裂し、側裂片は小さく、中裂片は側裂片と比べとても大きい。 各裂片の基部付近は白色に近いクリーム色で、それより先はやや紫色を帯びた褐色です。 中裂片の縁は黄色味が強く、縮れたひだになり、フリルのようです。 中央には3条のとさか条の突起があります。 これを「しわ」と表現する図鑑もあります。 名の由来は、この唇弁がお猿の顔を連想させることに由来するそうです。

 

 蛇足ですが、エビネ属の花は、唇弁が3裂します。 唯一、唇弁が3裂せずに縁が細裂するのはキソエビネだけです。

 

 さて、薄い黄色の帽子状の部分が、蕊柱です。 この下に葯に包まれた8個の花粉塊がありますが、上の写真では見えません。

 

 この花には、距がありません。 子房の入口には、白毛が密生していますが、上の写真ではよく見えませんね。 次の拡大写真でもう少しよく見えます。

 

サルメンエビネの花の拡大

 

 ここまで近づくと子房の入口の白毛も見えます。 唇弁中央部の「3条のとさか状突起」の様子もよくわかります。 かなり複雑な形状ですね。 なぜこのような形にしたのでしょうか?

 

 ラン科の唇弁は、花粉塊を運んでくれる昆虫を誘うための広告塔ですから、サルメンエビネが訪れて欲しい昆虫が興味を持つような形状にしたに違いありません。

 

 この花には、距がありません。 距とは、唇弁の奥に続く細長い袋状の器官で、通常はこの中に蜜をためて昆虫を誘います。 距がないということは、蜜も出さないと思って良いと思います。 蜜を作るためには糖を合成するためのエネルギーが必要です。 蜜を作らなくて済むなら、それは植物にとって省エネルギー、つまりエコであり、他に生存エネルギーを振り分けることができます。

 

 しかし、昆虫が好む蜜を持たずして、昆虫を誘き寄せて花粉塊を運ばせるには、どうしたらよいのか? サルメンエビネが出した答えは、思いっきりハデな唇弁を作り、昆虫の目を引いて、あたかもおいしい蜜があるフリをすることだったのかも知れません。 ハデな広告塔に誘われてフラフラと飛んできた昆虫は、蜜をもらおうと子房の入口に頭を突っ込みます。 しかしそこにな何もない。「ちぇっ、蜜がないじゃん!」と舌打ちをして飛び去る昆虫の背中には、しっかりと花粉塊が付けられ、送粉者に仕立て上げられているのでしょう。 見た訳ではなく、勝手な想像ですが。

 

 それにしても開花前のツボミの状態では、唇弁は小さく折り畳まれて仕舞われていたはず。 これだけ複雑な形状だと、展開するのに苦労しそうです。 でも展開し損ねたような花は見当たらず、みんな立派に開花していました。

 

 唇弁のとさか状突起の中は、どうなっているのかな? 空洞なのか、何かで満たされているのか? 花を1個採り、唇弁を切断して調べればわかることですが、それは「HiroKenの花観察のポリシー」に反するので、できません。 唇弁を裏から見たら、何かわかるかも知れません。

 

サルメンエビネの花の側面-1
 花の側面-1


 唇弁を背面から見る前に、花を側面から見てみます。 唇弁の側裂片は、上辺と下辺が後方に反り返るようになっていました。 正面から見てもそうなっているのかなと思いましたが、側面から見てそれが正しかったことを確認できました。


 上の写真では萼片に、ごく短くまばらな微毛が生えている様子も見えます(背萼片の基部あたりに注目してください)。


サルメンエビネの花の側面-2
 花の側面-2

 

 花の側面の写真をもう1枚。 唇弁の中裂片の基部は、意外にも

薄かった!(矢印部) 大きな中裂片は、本当に薄い部分で吊り

下げられていました。 正面からの印象とは大分違います。

 

 ところで、中裂片の褐色のとさか状突起をじっと見ていたら、

妙義山を連想しました。 同じような連想した人は... きっとい

ないでしょうね。

 

サルメンエビネの花の背面
 花の背面

 

 さて、いよいよ花の背面です! あれ〜? 唇弁中裂片の

裏面はほぼ平坦です! 表面のとさか状突起の凸部は、裏面

から見ればの凹部となっているのでは?と想像していたので、

これは意外です。

 

 そうなると、とさか状突起の中はどうなっているのか、ま

すますわからなくなりました。 空洞なのか? あるいは芯

まで唇弁の組織で満たされているのか? ナゾは深まるばか

りです。

 

 中央に縦に走る、まるで折り目のような... あるいは、継

ぎ目のようにも見える部分も気になります。 つぼみのとき

は、この部分を折り目にして畳まれていたのでしょうか? 

サルメンエビネの花のナゾは尽きません。

 

サルメンエビネの花柄子房
 花柄子房

 

 上はサルメンエビネの花柄子房に注目した写真です。 花柄子房は明確に180°ねじれていました。 サルメンエビネは、花柄子房を180°ねじらせて唇弁を下側につける「標準タイプ」のランです。

 

 苞は細長い三角形で先端はとがり、長さは5〜8mmです。 花柄子房を根元で支えているように見えます。  茎や花柄子房にはごく短くまばらな微毛が生えていました。

 

 

 長年、見たくても出逢う機会がなかったサルメンエビネに出会えました。 この幸運に感謝したいと思います。 思っていた以上に見応えのある、美しくも立派なランでした。 このランがいつまでも生き続けられる環境が維持されることを、切に願います。

 

 ところで、毎年年末近くなると年賀状をしたためる訳ですが、その年に一番印象に残った花を題材にしています。 新年の干支などまったく気にしなかったのですが... 2016年の干支を思うと、もうこの花に決まりかな!?

 

2015.07.06 掲載

 

 

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コメント: 2
  • #1

    ゆき (火曜日, 14 7月 2015 15:03)

    こんにちは、HIROさん、kenさん、連日の猛暑をわすれさせてくれる、ほど、清々しいサルメンエビネランですね、とっても立派な株だち、末長く、自生地で、静かに暮らして、ほしいです、貴重なサルメンエビネランですもの。

  • #2

    HiroKen (火曜日, 14 7月 2015 20:59)

    ゆきさん、いつもご訪問をありがとうございます。
    本当に多くのページを見ていただき、とてもありがたく思っています。
    お優しいコメントには、いつも癒されています。

    サルメンエビネは、思っていたよりたくさんいて、そしてとても立派に咲き誇っていました。 このような植物たちは、日本の、そして日本人の財産だと思います。
    ずっと元気に咲き続けていてほしいものですね。

 

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