スズムシソウ

 

鈴虫草 ラン科 クモキリソウ属

Liparis makinoana

スズムシソウ  2014.05.18 東京都八王子市 alt=650m
 スズムシソウ  2014.05.18 東京都八王子市 alt=650m

 

 ずっと見たかった花です。 今年(2014年)は幸運にも自生

地の情報をいただくことができ、念願の初対面を果たすことが

できました。しかも、複数の場所で出会うことができたのです。

 

スズムシソウ 2014.05.31 山梨県南都留郡 alt=1100m
 スズムシソウ 2014.05.31 山梨県南都留郡 alt=1100m

 

 山地の樹林化に生える多年草です。 茎は卵球状の偽球茎、

花茎は高さ10〜20cmで直立します。  花期は4〜6月で、淡

紫褐色で径3cmほどの花を10個前後、まばらにつけます。

北海道〜九州に分布します。

 

スズムシソウの葉-1  2014.05.18 東京都八王子市
 スズムシソウの葉-1  2014.05.18 東京都八王子市

 

葉は2個で、長楕円形。 縦方向に走る主脈は隆起し、

網目模様の2次脈も見えます。 縁は波打ちます。

 

スズムシソウの葉-2  2014.05.31 山梨県都留郡
 スズムシソウの葉-2  2014.05.31 山梨県都留郡

 

 葉の様子がわかる写真をもう1枚。 主脈が目立ち縁が細かく波打つ特徴は同属のクモキリソウの特徴に似ていますが、2次脈が目立つのは、同じく同属のジガバチソウに似ています。 クモキリソウとジガバチソウの葉の特徴を併せ持つ感じでした。

では花の詳細を見てみましょう。 

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スズムシソウの花の側面
 花の側面

 

花茎には明確な稜があります。

 

はこの写真ではよく見えませんが、卵状三角形で鋭頭、長さ1〜2mm。

花柄子房の基部を下から支えるようについています。

 

花柄子房は紫色で、ねじれが見えます。 スズムシソウは花柄子房を180°ねじらせて唇弁を下側につける、多くのランと同じ「標準タイプ」のランです。

 

背萼片は広線形で鋭頭、真上に直立しますが、やや後方に反った感じで、先端部はやや前傾している場合もありました。 いずれにしても背萼片の先端部は蕊柱よりかなり後方です。

 

2個の側萼片は縁が巻き込んで筒状になり、外観は広線形。 斜め前方に突き出し、花を正面から見ると唇弁の下からわずかに先端部を覗かせます(2枚下の写真)。

 

2個の側花弁は糸状で、萼片と同長、緩やかに湾曲し下垂します。 細いのでまるで昆虫の足のように見えます。

 

唇弁は基部付近が緩く反曲します。 平たく見えますが、縦方向の中心線がやや凹み、その結果左右両端がやや持ち上がっています。 このことは後半に掲載した写真の方がわかり易いかと思います。

 

スズムシソウ 中心部の拡大
 中心部の拡大

 

蕊柱の上部両側には三角形で鈍頭のがあります。

花粉塊は黄色。 上の写真では取れかけています。

 

スズムシソウの花の正面やや上方向から
 花の正面やや上方向から

 

 唇弁がなんとも特徴的です。 倒卵形で円頭、先端に

微突起があります。 全体に平らですが、両端がわずか

に持ち上がります(2つ下の写真参照)。

 

 唇弁全体に暗紫色の脈が走っているのが見えます。

基部付近は蕊柱と同じく黄緑色でした。 名の由来は、

この唇弁からスズムシを連想したのでしょう。 細い

<萼片・側花弁と相まって、本当に昆虫を連想させる形

の花だと思いす。

 

 唇弁左右下側から側萼片の先端部が覗いています。

その側萼片が、唇弁を通して薄っすらと透けて見えます。

こんな所もこの花の鑑賞ポイントかな? と思いました。

 

スズムシソウの花  2014.05.31
 スズムシソウの花  2014.05.31

 

 唇弁中央から基部にかけて、緑褐色で細い帯状のやや光沢

がある部分があります。 これは蜜腺ではないかと思います。

空を飛ぶ昆虫は、とても広くて着地しやすそうな唇弁の中心

に甘そうな蜜があったら、思わず寄り道したくなるでしょう。

唇弁に着地して蜜を舐めながら花の基部に導かれ... そして

知らぬ間に花粉塊をつけられてしまうのでしょう。

 

 図鑑には近縁種のセイタカスズムシソウの唇弁には「縁に

微鋸歯がある」と解説されていますが、スズムシソウにもあ

るようです。 上の写真では唇弁左上の部分の微鋸歯がよく

見えます。

 

 ところでこの写真にかぎらず、白っぽい粉状のものが乗っ

ているように見えるものがありますが、これは他の植物の花

粉と思います(おそらくスギ花粉)。

.

唇弁を水平方向から見る
 唇弁を水平方向から見る

 

 唇弁の先端から基部に向かって、ほぼ水平方向に撮影してみました。 この方向から観察すると、唇弁はウチワのように平坦ではなく、緩いV字型になっているのがわかります。

 

 ここからは勝手な推測ですが、このような断面構造にしないと、幅が広く、かつ薄い唇弁は、両端が垂れ下がってしまうのではないでしょうか? ラン科の植物の唇弁は、花粉を運んでくれる昆虫に見つけてもらうための、とても大事な「広告塔」。 大きな広告塔をつけても、端が垂れ下がってしまっては効果は半減。 これを防ぐために、V字型になっているのだと思うのです。

 

 加えて、側萼片です。 下から唇弁に接し、どう見ても唇弁を支えているように見えませんか? ただの細い萼片で何かを支えるのは困難。 そこで萼片の縁を巻き上げて筒状にし、強度を増したのではないでしょうか? 1枚の紙の端を持って何かを動かすことは困難ですが、紙を巻いてストロー状にすれば強くなり、軽い物なら持ち上げることもできます。 それと同じ理屈です。

 

唇弁を下から見る
 唇弁を下から見る

 

 花を下方から観察してみました。 この角度から見て、『側萼片は

薄く大きな唇弁を支え、形状を安定化させる役割を担っている』とい

う上記の推測に、ますます確信が深まりました。

 

 側萼片はV字型に前方に突き出し、中央から先は徐々に細まり、唇

弁の最も重たく垂れ下がりそうな部分を支えます。 先端が細くなる

のは、自身の重量を軽減する意味もあり、また唇弁との適度な接触面

積を得る意味もあるのでしょう。 唇弁よりわずかに長いのも、風に

揺さぶられたり、昆虫が乗ったりしたときに安定して唇弁を支えるた

めの条件のように思えます。

 

 「唇弁の上から側萼片が透けて見えるのも、この花の鑑賞ポイント」

と前述しましたが、植物は人間に鑑賞してもらうことなど微塵ほども

考えていません。 生きる目的はただ一つ、「子孫をたくさん残す」

ことです。 ラン科の花は(ラン科に限らないのですが)、進化の過

程でいかに多くの子孫を広範囲に残せるのか、あらゆる可能性を試し

ているのだと思います(現在も)。 花の各部の形状・大きさ・色な

どに「偶然」は一切なく、そのすべてに意味・理由がある「必然」な

のでしょう。 唇弁から側萼片が透けて見えるのは、スズムシソウが

選択した進化の方法の一つの結果なのでしょう。

 

 ラン科の花は本当に多様性に富んでいるので... 「なぜこんな形に

なったのだろう?」と考えることは、とても楽しいことです(正解は

わからないのですが)。

 

若い花
 若い花

 

 まだ唇弁を広げる前の、若い花です。 このように巻かれた状態

なのですね。 逆に側萼片の中ほどから先はまだ巻かれてなく、細

長いヘラ状です。 この後、先端付近まで巻き込まれて筒状になり、

唇弁を支えられる強度を得るのでしょう。

 尚、この写真では花柄子房の「ねじれ」も明確に見て取れます。

 

スズムシソウの芽吹き
 スズムシソウの芽吹き

 

スズムシソウの芽吹きです。

 

 

2014.10.03 掲載

コメント: 4 (ディスカッションは終了しました。)
  • #1

    みちほ (日曜日, 05 10月 2014 09:19)

    スズムシソウは何回か見たことがありますが、これほど詳細にみたことはありませんでした。 凄い!!としか言いようのない写真の数々に目が点でした。
    写真の出来栄え、説明と私の植物の見方が大きく変わりそうです・・・
    いつもいつも素晴らしい情報をありがとうございます!
    花さんぽさんは植物博士ですか? これからも勉強させていただきます!
    が、頭に入っていくかが心配です。

  • #2

    hanasanpo (日曜日, 05 10月 2014 13:32)

    独善的な理屈をこねたページとなってしまいましたが... 目を通していただき、ありがとうございます。
    まだ超初心者の頃、図鑑などで「側花弁」「側花弁」などと専門用語が出て来ても実物のどの部分になるのかサッパリわからず、ネットで調べても写真が小さくてよく見えなかったり、とても困りました。花図鑑を作っていこうとは思っていませんが、わかりにくいと思われる部分はしっかり図示し、写真も大きめにするように努めています。
    そして何か一つでも、図鑑にはない視点の感想が盛り込めたら楽しいかな?と思っています。今後もぜひ気軽に遊びに来てくださいね。

  • #3

    和子 (水曜日, 28 6月 2017 11:46)

    スズムシソウの詳しい説明とても勉強になりました。
    花さんぽさんにお聞きしたいのですが、唇弁が黄色いスズムシソウもありますか?
    礼文島で見たのですが、名前がわかりません。

  • #4

    Ken (水曜日, 28 6月 2017 13:17)

    ご訪問をありがとうございます。
    唇弁が黄色いスズムシソウは、聞いたことがありません。礼文島には行ったことがありませんし、実物を見ていないので「黄色」がどの程度のものなのかもわからないので明確なことは言えませんが... 他の植物と見間違えられた可能性もあると思います。

 

 

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